■puppy's tail 3

□屋根より高い
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 “屋根より高い” 〜Puppy's tail


庭を望める出窓に小さなお手々を乗っけて、
きょろりと瑞々しい大きな双眸や福々としたお顔も愛らしい、
小さな坊やがお外をじいッと見ておいで。
時折はたりぱさりと大きめの影が躍っては、
はややと驚いたように小さな肩を震わせ、ぴゃっと頭上を見上げるが、
自分の反射が為したことだのに、
バツが悪そうに瞳だけでキョロキョロしてから、
竦めた肩を戻しつつ何事もなかったかのように取り繕う。
やってることの心持ちも覗ける、それは判りやすい挙動なのへ、
あありに可愛いのでこそりと覗きつつ、辛抱たまらんと吹き出しかかるルフィ奥様へ、

「奥様、柏餅をご用意しますよ。」
「あ、うん。俺も手伝うvv」

ツタさんが、そちらも気を逸らそうという意向からのお声掛けをすれば、
そりゃあ判りやすく乗ってしまった幼い奥方。
そちらのやり取りへこそくつくつ笑いがつい出てしまった、今日はお休みだったご亭主で。
箱根の町は4月に入っていきなり積もるほどの雪が降ったり、
そうかと思や初夏並みの気温になったりと、そりゃあ忙しい春だったが、
こちらのお宅は相変わらず、ドタバタしつつも平和なご様子。

 『ママ、おっきなオトトvv』
 『そだなぁ、大きいなぁvv』

男の子だものこいのぼりだって早くから揚げておりましたよ。
どちらかといや普段は子供が少ない、引退なさった方々の多い街なので。
庭先で天を衝くよなポールを立てて
それへ添わすよに五色の吹き流しや真鯉緋鯉を連ねたそれ、高々挙げておれば。
近所の皆様も微笑ましいとお顔を出しのご挨拶くださり、
お祝いというほどじゃあないけれど、小さな海くんへと柏餅やら金平糖やら、
お土産感覚でお食べと下さってもいて。

 『ああ違うよ、カイちゃん。鬼は外じゃあないから。』
 『う?』

お雛さまにも ひなあられを小さなお手々一杯に掴みかけ、
察しのいいツタさんがやんわり制したのを彷彿とさせるよな
可愛らしいやり取りがあったのもご愛嬌。(笑)
空高く悠然と泳ぐこいのぼり、
あまりの高さについのこと お口を開けて見上げていた幼い姿は、
大人たちには そりゃあほのぼのと映っての可愛らしく。
皆様から可愛がられているのが親御たちにも誇らしい、そんな光景だったれど。

 「何でああやって、関心ありませんて風を装っているのかなぁ。」

リビングのテーブルへ、お茶や柏餅やチョコ菓子などなど、
おやつの支度を並べつつ、こそりとルフィが訊いてくる。
揚げた当日からこっち、それは素直に
気がつけばというほどのノリで、頭上のこいのぼりばかり見上げていたカイくんだったのに。
昨日あたりからあのように“観ておりません”という素振りを見せるようになった。
そのくせ視野には入るところにいるし、
大きな鯉の影がばさりと届けばハッとしてちらっと見上げもする。

 「少し大人になられたのですよ。」
 「え?」

ツタさんがふふと小さく笑って呟いて、

 「ただただじっと見やってばかりいるのが
  “子供っぽい”と感じたのではないでしょうか。」
 「え? それってなんで?」

だって実際子供だし、やっぱり気になってしょうがないには違いないのに?と。
何で何でと訊こうとするルフィさんこそ子供だねぇと、
今度はゾロパパまでもがくすりと笑えば。
その気配には聡くも気づいて
“何だよぉ”と口許ひん曲げかかった奥方だったが、
その途中で“あ”と気がついたらしい。

 「そっか。カイなりの背のびかぁ。」

小さい子みたいにこいぼぼりばっかりに気を取られちゃいませんよ、
こいにょぼりの他にだって構うものはあるんです、忙しーんです、カイだってと。
そんな素振りをしてみているらしく。
でもねあのね、気にはなる。それは青々とした大海に悠然と泳ぐの、いつまでも観ていたい。
きっと海を見たらいつまでも眺めていたくなるような、そんな気分と同じこと。

 「別に、子供っぽいことじゃあないのになぁ。」
 「でも、他の大人はさほど気を留めないから、あれ?って思ったんじゃねぇかな。」

一つことにしか気が行かぬより少し視野が広がって、
大人になられた証拠ですよと、
ツタさんがほこりと笑って言って、
そっかと奥方も坊やとそっくりのお顔をほころばせたものの、

 「俺だって初めて出して揚げた年はずっとずっと見てたぞ。
  恥ずかしいとか誤魔化すことねぇのにな。」

猫に比べれば動くものへさほど過敏な反応示す方ではないシェルティさんが、
正体が判っても尚、飽かずこいのぼりを見やってた図は、
これまたご近所さんも覚えてる。
ああそうだったねと大人二人が微笑ましいなと笑ってのそれから、

 「ルフィはどっちかというと現実的だったからじゃね?」
 「なんだよそれ。」
 「だから。」

言いつつ大皿から緑のササにくるまれた粽を一本手に取って、
器用に剥いてほれと差し出すゾロだったのへ、それは素直にあ〜んしたルフィさん。
こいのぼりも魅力的だったが、
その日はツタさんが手によりかけて美味しい餅菓子たっくさん作ってくれたので
食べ物の方へ比重が移っただけなのかも知れぬ。
今日がお誕生日なのだもの、幼い心持のままであれと、
そこまで突っ込んでは仕舞わず、微笑ましいですねぇと笑うばかりな大人二人であったそうな。



Happy Birthday To Luffy!!
  

  〜Fine〜  19.05.05.





 *余りに久し振りすぎて海くん(カイくん)の年齢設定忘れました。
  喃語ででも もうちょっと達者に
  両親のけんかの仲裁したくらいには、結構喋ってたような気もするのですが。




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