■天上の海・掌中の星 3

□金環食って♪
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明日の
スカイツリーのオープンも、
これでの混雑とか
中継権の争奪とかで
揉めそうだから
火曜にずらした説が
あるほどの、
世紀の天体ショー。
心配されたお天気も、
雨や分厚い雲に
泣いたところも
多々あったそうでは
あるものの、
おおよその各地で
観測には適う明るさの中、
月に蓋されてゆく太陽の、
金の環を多くの人たちが
見上げたのが、

 「金環食って、
  口に出して言うと
  “ノド飴”の
  キンカンを
  連想しちゃうのは
  俺だけかな。」

 「安心しな。
  金柑がらみの
  菓子やらケーキやら、
  あやかり商品に
  結構あるらしいから。」

枕がまだ終わってないのに、
始めてくれた坊ちゃんは、
前日どころか先週辺りから
わっくわくでいたようだったが、
保護者の破邪様は
あんまり関心はなかったらしく。

 『そりゃあサ、
  ゾロだったら
  宇宙空間とかから
  なんぼでも
  見られるんだろうけど。』

 『宇宙空間ってのは、
  俺らの自在空間とは
  次元範囲が違うんだがな。』

相変わらずの、
斜め50度ほど外した
言いようをしていたけれど。
そうは言っても、
大切なルフィ坊やが
ここまで楽しみに
しているもの。
もしも最近襲来しまくりの
悪天候が来ようものなら、
そっち方面の大天使長と、
一戦交える覚悟で
いたんじゃなかろか
というほど、
今日は朝早くから
微妙に緊張して、
朝ご飯の支度に
かかっておいでだった
ゾロだったようで。

 「うあ、凄げぇっ。
  ホントに欠けてってるぞ!」

完全に重なって
“金環食”状態になるのは
七時半前だそうだけど、
それより随分と前から、
案の定、わんぱく坊主は
そわそわし始め。
何かありそうな予感に
落ち着かない座敷犬みたいなと、
後日の保護者さんに
言わしめたほど。
まだかなまだかなと、
リビングの窓辺へ寄ってっては、
薄く雲の懸かる空を
見上げるので、

 『何だ、
  気がつかんのか?』

実はもう、
少しずつ欠けてるんだぞと
言ってやれば、
うわぁっと飛び上がって
学校へ背負ってく
デイバッグに駆け寄り、
観測メガネを取り出した。
それをかざして、
あああ太陽がどこか判らんと
キョロキョロしてから、
ぴたりと動作が止まると、

 『……あ、ホントだ!
  端っこが欠けてる!』

言ってくれよな、もうっと、
やや怒られかかったもんの、
それどころじゃあ
なくなったらしい坊や。
お喋りが
つと止まってしまったので、
1分以上は続けて観んなよと、
ちょっかいかけを
時々差し挟みの、
キッチンへ引っ込んで、
朝ご飯とお弁当を作りに
かかったお兄さんだったのだが。

 「ぞろぞろぞろぞろっ!」
 「大挙して
  何か来たみてぇだから、
  その呼び方は止せ。」

フライパンから皿へ、
ネギ入り出し巻き玉子を
すべり降ろしつつ、
少々眉間に
しわを寄せた破邪殿を。
そんなの構うかと、
トレーナーのひじ辺りを
引っ掴んでリビングまで、
やや強引に
呼び招いた坊ちゃんであり。

 「ほらっ、凄いぞっ!」

今観とかないと、
東京じゃあ三百年後まで
見れねぇんだぞと、
空をゆく風のあるせいで、
時々千切った和紙のような
薄い雲が翔る空を、
ほら見ろよと
指さすルフィなものだから。

 「ああ。」

苦笑交じりに見上げてみれば、
こうまで晴れているのに、
ちょっと照度が低いのが
不思議だったその原因。
目映い太陽が、
専用グラス越しになると、
赤みを帯びた
黄色い二重丸に
なって見える。

 「何か小さくねぇか?」

 「それだよ。
  見失うと
  探すのが一苦労でよ。」

言いながら、
もう1つ用意があったらしい、
厚紙の縁が
にわか煎餅を思わせるような
四角いレンズをかざして
空を見上げている坊や。
よほどのこと楽しいのか、
口元がいつにも増しての
始終ほころんでいて、
時折視線をお隣へ向けては
“な?”と“な?な?”と
満面の笑みを向けてくれ。

 「あ、ああ…。/////////」

ゾロにしてみれば、
そんな屈託のない
笑顔の方こそ
見ごたえがあったものだから。
まだ長袖じゃなきゃいけない
制服のシャツを腕まくりした、
わんぱく坊主の
陽やけしかかりのお顔に、
釘付けになりかかる
爲體(ていたらく)。
そして、
いちいち判りやすい
笑顔にまではならない
ちょっとクールな
お兄さんなのには慣れている、
坊やの方は方で、あのね?

 “………はやぁあ。//////”

ここまで明るい中、
二の腕同士が当たるほどの
至近にて、
きりりと精悍な
男臭いお顔を
見ることとなったのが。
思わぬドキドキだったようで。


  な、なんか
  ちょっと暗くね?

  みてぇだな。
  あんだけ
  太陽に蓋されっと、
  影響はあるんだって。

  そか。
  あ、あの木の陰、
  なんか
  三日月みたいに
  なってっぞ?

  どら、ああホントだな。


会話だけを拾っていると、
何てことはない
観察風景でございますが。
なあなあと
話しかけてる小さなお手々が、
お兄さんの
トレーナーのひじ辺りを
再び
怖ず怖ずと捕まえていたり。
それへ応じる
お兄さんの大きな上背が、
もう十分間近いのに、
何だ
聞こえないぞとでも
言いたいか、
やや、心持ち、僅かほど、
わざわざ少しだけ
傾けられての、
ますますと寄り添ってたり。
何とも微笑ましい様子で
空ばかりを見上げて
ござったそうですじゃ。





   〜Fine〜  12.05.21.





すいません。
時事ネタなんで
つい…という、
走り書きです。
あのお祭りごと大好きな
坊やだったら、
絶対に大騒ぎして、
観察してるんじゃなかろかとvv

ウチは専用レンズの
用意がなかったので、
モクレンの木洩れ陽を見て
ドキドキとしておりました。
細い三日月が
庭中いっぱいにあふれていて、
少し強い風にあおられては
ブルブルと震えるのが圧巻でした。
K市は
薄曇りから
ガンガンと晴れて来て、
全くの全然関心なかった
言いようだった母が、
結局は
わざわざ表へ出てくるほど、
楽しんでおりましたよ。
(うっかり
 洗濯物にかかり切ってたのを、
 窓から
 “もうすぐほとんど隠れるよ”と
 教えてくれましたし。)






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