■天上の海・掌中の星 3

□花守の座にて
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それはそれは大きいものを
間近で見るには限度があって。
あまりにすぐ傍らに
近寄り過ぎては、
全体がまるきり見えぬ。
だがだが、
そうだからと言って、
全貌見たさに
遠巻きになるのでは、
直に見ている気がしない。


  だから…という
  申し合わせのようなこと、
  わざわざ事前に
  言い合わせたワケでも
  ないのだが。


大きな手招きで
“早く早く”と急かしつつ、
視線は既に、
到着先へと意識ごと移っており。
一応は視野の中へ
出来るだけたくさんを
見渡せるような位置どり、
手前の小ぶりな岩島に、
ゆったりと
腰を下ろせるような
シートだの
座布団だのといった
“席”の用意をしてはおいたが。
サンジだのナミだのといった
気の回る顔触れでなくとも、
そこは…
この坊やにだけは気の利く
保護者歴も長い破邪殿だけに。
ただただ
ほわんと大人しく
見物ってだけでは
終わるまいとの予測も、
当然のこととして
把握していたゾロが、

 「ちょっと待てっての。」

一人で勝手に
先へ先へと進むんじゃねぇと、
やや声を荒げつつ、
その広い背中や肩やに
担いでいた荷物を降ろす。
三次元の陽世界では、
も一つ上の次界人で
あればこその特技、
時間軸を
ひょいとまたぐという
荒業を使い、
遠くにあるものを難無く
そこいらの空中から
取り出したり持ち出したりが
出来る彼だが。
ここ、天聖世界では
それが適わなく
なるのだそうで。

 『まあそんでも、
  こいつの馬鹿力がありゃあ、
  ちょっとした
  ログハウス程度なら
  担いで
  移動させられようしな。』

 『…人を何だと
  思ってやがる。』

喧嘩売ってんなら
買うぞオラと、
相変わらずの
打てば響くという呼吸で、
互いに
お顔を斜めにし合っての
いかにも険悪な
睨(ね)めつけ合いに
なったのは言うまでもない
サンジとゾロだったのが
つい昨日。
随分と言葉を
省略しあってたというか、
出来るもんかと
呆れ半分に一笑に付すとか
しなかったのは、

 “出来ないことじゃ
  なかったからだな。”

この天聖界には海がなく、
その代わりというのもなんだが、
どういう重力関係なのやら、
広大な草原だの
岩山だのという
地上に何もなさげな
地域に限り、
天穹に浮かぶ
大小の岩島があって。
いつだったか

 『落ちて来たら危ないから
  人が住まないのかな?』

そんなうがったことを
訊いたルフィだったのへ、

 『さてねぇ。』

それも成程
一理あるのかも
しれないがと、
面白い言い方をする子だと
ひとしきり笑ってから、

 『そも、
  意志を持つ人というのが
  多くいるところだと
  やたらと
  思念が飛び交っているから
  島もおちおち
  浮かんでられないのかも
  しれないねぇ。』

 『???』

恐らくは正解、だがだが、
坊やには結局のところ
意味が判らなかったらしい
解答をしてくださった、
天炎宮を預かる、
烈火の天使長くれは様が。
南聖宮自慢の大樹を
見物しに来いと、
ルフィ坊やを
誘ってくださったのが
ほんの数日前のこと。
天世界に満ちる聖獣や仙魚、
蟲妖などなどが
そこで生まれるとされる
生命の泉を管理しておいでで、
その泉自体は
どこにあるのかも
内緒の秘密なのだが、
生命力あふるる
その清らかな水のちからで
ぐんぐんと育った
特別な大樹が、
命の芽吹く春に
一気に花をつけるのだとか。
そんな神聖な樹、
滅多な存在が
近づいてはならぬの
だろうに。
天聖界を救った坊やだ、
どんな問題があるものか…と、
向こう様からの
お誘いがあっての
この来訪という運び。
どんなところで
どんな樹なのか、
来る前からさんざん訊いたが、
あいにくと
ゾロもサンジも
実際に見たことはないとかで、

 『ただまあ、
  地上にも同じのがある
  樹だって話だから。』

 『そいで大きいってことは
  …もしかして、
  バブバブかな?』

バオバブと
言いたかったらしいです、
察してやってくださいという
こちらも
相変わらずな
お約束もありの道中を経て。
足代わりに使えと
寄越された、
聖獣の大型飛来犬に乗っかって、
彼の意に添う方角へと
向かうまま辿り着いたのが、


 「ふわ〜〜〜〜、
  でっけぇ〜〜〜〜〜っっ。」


これは確かに…
近寄り過ぎては
何が何やらよく判らないが、
だからといって、
大樹と判るほど
全貌を見られるところまで
下がるとなると、
写真で観るのと
変わらないかも知れぬほど
遠くなる、
桁外れなスケールの存在で。

 「地上何十階もあるっていう
  タワービルとか
  豪華客船とか、」

あ、そうだ
スカイツリーも、
足元って
真下から見上げると
こうなんかもなと。
早くも体験しちまったななんて、
妙な方向で
納得している坊やなのへと

 「おいおい、おいおい。」

ついつい
裏向けた手の甲で
ビシッとツッコミ入れたくなった
ゾロだったのは、
地上通の彼ならではな
反応だったが…
それはともかくとして。
近づき過ぎては
何を見に来たのか
判らなくなるが、
さりとて
離れ過ぎては
実感が沸かぬということで、
ここがジャストな
ビューポイントらしい
近めの岩島に
大きいわんこが
すとんと着陸してくれたのへ、
ここは素直に従うことにし。
敷物じゃ飲み物じゃといった
荷のあれこれも
下ろしたし、
その中にあった
天巌宮で持たされた
特製弁当のお重も広げた。
どうして
こういう名前をつけるのか、
こやつは
“ドエドエフスキー・平賀Jr.”
とかいうわんこにも
ご褒美の骨つき肉と
ささみのムースを
だしてやっての、
さてさてと。

 「凄げぇよな〜〜〜〜。」




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