■天上の海・掌中の星 3

□春の嵐はケーキの香り?
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チーズケーキと
一口に言っても、
実は大きく分けて
3種類あるそうで。
サブレ生地の上へ
クリームチーズと砂糖と卵黄、
コーンスターチ等を
すり混ぜたフィリングを流しいれ、
オーブンで焼いたベイクド。
クリームチーズなどに
生クリームを混ぜ合わせたものを
クッキーを砕いて作った
クラスト生地に流し入れて
冷やし固めたレア。
そして湯煎焼きにするスフレ。
クリームチーズを牛乳とあわせ、
レンジで一分温めてといて、
卵黄に砂糖の1/3ほどを入れ、
泡だて器で
白くもったりするまで混ぜ、
ふるった薄力粉と
ベーキングパウダーも加え、
ここへクリームチーズをあわせて。
残りの砂糖と
卵白をあわ立てたメレンゲを
少しずつ分けて混ぜ入れ、
クッキングシートを敷いた
型に流し入れ、
170度に温めといた
オーブンの天板にお湯をはり、
170度で45分焼く。
竹串を刺して
生地がつくようなら
更に10分〜15分焼く。




 「う〜〜〜ん。」

天面は焼き目も
しっかり焦げ茶色。
焦げ茶といっても、
カステラや三笠のそれよろしく
“焦げた”訳ではないそれで、
それが証拠に、
切り分けた断面はきめも細かく、
淡い玉子色が目に優しい。
それはふんわり、
そしてしっとりと、
デザートフォークによる侵略を、
さしたる抵抗もないまま
すすすっと吸い込む、
まさに理想の仕上がりを
呈している扇形の立方体。
クリームチーズの
甘さとコクが
風味にしっかりと現れていて、

 「凄げぇうまいっ!」
 「そーか、
  それは良かったな。」

日頃、食事もおやつも
大口開いて
ぱっくりと平らげるのが
常の坊やが、
小さなフォークで、
一口分ずつを
切り分けて食べているのも、
ある意味 十分珍しく。
そんなに腹一杯なのかと問えば、

 「う〜ん、何でかな。」

訊かれた側も
小首を傾げていたものの、
うんと頷くと、

 「なんてのか、
  一気に食べっちまうのが
  勿体ねぇからだ。」

 「お代わりなら
  まだあんぞ?」

少ししかないので
ちみちみと堪能してるんだいと
言ってんならば、
そんな必要はないぞと、
苦笑混じりに言ってやれば、

 「そう言うんじゃ
  なくってサ。」

何て言ったら良いんかなと、
う〜んと え〜っとと
小さなフォークをくるくる回し、

 「口ン中であっと言う間に
  しゅわしゅわしゅわって
  解けてって。
  でも、
  全然いなくなるんじゃ
  なくて、
  ほわ〜って
  チーズの甘いのと
  クリームの甘いのが
  折り重なって残ってて。」

う〜んとえ〜っとと
熟考しただけは
あるということか、
それとも他でもない
“御馳走”への感慨だから
語彙も余計に
出て来るものなのか。
日頃の会話には、
大きに感じ入ったことほど
でかいとか小っせぇとか、
暑い・寒い・眠い・腹減った
くらいしか出て来なそうな、
単純な物言いの
多い子のはずが、

 「…チョー失礼だぞ、
  もーりんさん。」

だってさぁ。(苦笑)
あ、あ、あ、
そんなことへ頑張らなくても。
慣れないことだろうに、
せっかくの真ん丸なお眸々を
そこまで眇めなくとも
いいじゃないですか。
むむうというお顔だとはいえ、
坊やが場外を向いているのが
面白くないものか

 「まあ…俺も驚いてんだから、
  そうまで怒ってやるな。」

製作者ご本人からの
執り成しが挟まって、
何とかお話へ戻ってくださった
坊ちゃんだが、

 「これって、
  買って来たもんじゃ
  ないんだろう?」

 「おや、判るのか?」

うんうんと頷いて見せた
ルフィが言うには、

 「焼いてるときから
  いい匂いしてたし。
  でも、
  焼き菓子にしては
  濃いによいじゃなかったから、
  あれれえ?とは
  思ったけどな。」

まだたんとあるぞという
お言葉に甘えて、
あむりと、
今度は大きい目のを口へ運び、
むにむに・むぐむぐ
頬張った口許と一緒に、
目許まで“はにゃ〜ん”と
蕩ろかして。
隠しようもなく
しやわせだ〜というの、
そりゃあ上手に
表現する坊やなのへと、

 「そうか、そうか。」

美味しいか嬉しいかと、
こちらさんも
顎を支えるように
テーブルへ肘を突いてた
お兄さんが、
その大雑把そうな
態度に見合った
“にっか”という
男臭い笑いようで返していたが。




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