■天上の海・掌中の星 3

□秋の風吹く 天穹にて
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さほど弱まったようにも
思えない明るさなのに、
それでも秋の陽射しは
真夏のそれとは微妙に違っており。
日向にいたり、
体を動かしたりする分には、
相応の汗をかくほどの
気温じゃあるが、
風の涼しさが格段に違うし、
建物の中や日陰に入れば、
すうと肌寒いほどの
涼しさに襲われもする。
朝晩の気温がぐんと下がったのも
そんなせいだろうし、
照らし出すものに
活気を与えるような、
挑発的なそれだった夏とは
色合いや何やも違うと思う。

 『どこかこう、
  枯れた印象を
  与えるというか。』

秋桜やバラが
そう見えるっていうんじゃないけど、
同じ窓から見てた景色がさ、
特に紅葉とか冬枯れとか
始まってもないうちから、
そんでもどっか、
色合いが随分違うんだよな…なんて。

 「へえぇ。
  そんな粋なことを言ってたか、
  あの坊ちゃん。」

柄じゃあないんで
驚いたという
含みのある言いようには、
多少は誹謗だったことから、
失礼なという憤慨を
微かながら感じもしたものの。
だがまあ、
意外だって点では
似たような感慨もあった
破邪殿としては、

 「もしかして
  ナミのかけたガードの封印、
  弱まってんじゃねぇのかよ。」

 「ナミさんが
  不備をするはずが
  なかろうよ。」

そもそも、
女神さまを呼び捨てにすんなっ
つってるだろうが、
三枚に下ろすぞコラと。
たちまち
熱(いき)り立ってしまった、
何とも判りやすい
聖封殿ことサンジだったのへ、
意趣返し成功と
ふふんと微笑ってから、

 「……で?
  野郎が逃げ込んだ先は
  まだ判らんのか。」

 「話し掛けるから
  集中出来んのだ、
  馬鹿たれ。」

ここは
破邪のゾロがルフィとの
日頃の住まいとしている
町の上空で。
すっかりと秋めいて来ての
澄み渡った空気に満ちた、
それは爽快な、
晴れの大気が広がるばかりな
空間だったが、
こちらのお二人には
それを堪能するどころじゃあ
ないらしく。
ほんのつい先程、
大型邪妖が出現する
反応有りと察知した
聖封殿に呼び出され、
ちょっとした体育館くらいは
あっただろ、
亀とトカゲの
中間のような外観をした
大妖を相手に、
封滅の咒を掛けつつの
討祓にかかっていたものの、

 「尻尾を残して
  逃げようとはな。」

何せまだ昼のうち、
さほどの余力はなかろうと、
足止めしつつ封印で囲って、
何なら
天聖界へ送り返してもと
構えての、
威嚇止まりの攻勢だったのが
甘かったものか。
そんな格好で
本体を取り逃がしてしまった
お二人であり。

 「…丁寧な言い方されると、
  ますますムッと来んだがな。」

事実は事実、
八つ当たりはやめて下さい、
破邪殿。(苦笑)
とはいえ、
異次元からの侵入者が、
組成の異なるこの陽世界で、
長らくその身を保つのは
なかなかに難儀なことであり。

 「そういう種類の
  邪妖じゃなかったってのか?」

だとしたら…
この世界で派生した存在ならば、
少なくとも、
ここの環境に馴染めぬまま、
押し潰されかけての
苦しんで暴れていたワケじゃあ
なかったことになる。
先程まで振るっていた精霊刀を、
今は腰の鞘へと収め、
得意ではない探査だからだろ、
あまり熱心じゃあない様子で
周囲を見回しつつ、
そんな見解を
口にしたゾロだったのへと、

 「天聖界や
  異世界からの来訪者でなくとも、
  陰体の“邪妖”なら、
  余すところなく
  俺らの管轄だぞ。」

忌々しげに言い返した
サンジだったのは、
最初に構えた方針の基盤、
相手の出自を見誤ったらしいとの
自覚があったせいだろか。
とはいえ、
人の和子への
余計な干渉をされては、
陽と陰のバランスが
大きに崩れかぬので。
ここで派生した存在でも、
それが陰体ならば、
自分らの方が
余程に専門職だから、
看過しないで
進んで対処することと
されてもいて。

 「ただまあ、
  あの
  昼間は猫の剣豪らが
  翔って来たらば、
  譲らにゃならんのかも
  だけどな。」

 「……そういうもんなのか?」

縄張りがどうこうと
いうんじゃないが…と、
微妙に言葉を濁した
サンジさんが持ち出した、
昼間は猫の
大妖狩りさんたちのお話は、
昨年の夏と
ハロウィンのコラボ話を
参照ということで。(苦笑)

 「………いたぞ。」



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