■天上の海・掌中の星 3

□食彩も色々?
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いつまでも続く
残暑に辟易しつつ、
それでもお元気に、
新学期を迎えた学校へ
出掛けていっては、
日々起きるささやかなことへ
笑ったり膨れたり。
微妙な厄介ごとへは、
困るばかりじゃあなく、
何のこれしきと
腕をまくって張り切ったり。

 「ウチは九月の連休も、
  一応はガッコ行くからなぁ。」

何たって、
秋といえばの
学園祭が控えているので、
体育祭への
準備やら打ち合わせやら、
文化祭への以下同文やら、
これでもやることは
いぃっぱいあるのだそうで。

 「…にしては、
  あんまり関係なさそうな本に
  没頭してねぇか?」

 「あ、言ったなぁ。」

最初の第一週に
宿題の提出ラッシュが
済んだかと思や、
それへのアンサー篇みたく、
実力テストとやらが
主力教科だけながらも
あったそうで。
ぎりぎり粘ってでも
宿題を自力でやっつけたんで、
全部が白紙というお粗末だけは
免れたけどサと。
大合戦でも
くぐり抜けて来たかのように、
やれやれと肩を竦めた
一丁前さ加減へは。
怒らせるの覚悟で、
それでも…
大きな手のひらで腹を押さえ、
くくくっと
吹き出してしまったのが
ほんの数日前のお話で。
その折、
やはりやはり
“失敬だぞ////////”と
真っ赤になったルフィ坊やから
怒られてしまった緑頭の破邪殿。
何はともあれ、
そっち系統の艱難からは
しばらく解放されたはずの
坊ちゃんが、
まんがでもなけりゃあ
スポーツ雑誌でもない、
大判のグラフ誌を開いて
没頭しておいでの様へ。
やややと、
いかにも怪訝そうなお顔を
して見せる。
お行儀悪くも
数人がけのソファーに
寝転ぶ格好、
腹の上へと立てたご本は、
表紙に
レースやリボンに飾られた
ケーキがコラージュされた、
紛うことなき、
スィーツ専門の
クッキングブックであり。
この坊やが
なかなかの食いしん坊なのは
重々承知、
秋のお薦め新作ケーキだの、
お店紹介だのという
ムック本ならともかくも、
初心者男子でも簡単
レシピ集というのが、
ゾロにしてみりゃ
少々 腑に落ちぬ。
そっちもあんまり
喜ばしい光景じゃあないものの、
彼らの知己には
料理自慢が約一名いるのだ、
大概のものは
鮮やかな手腕で
再現してくれるので、
食べたい食べたいvvと
リクエストすれば済む話。
どうしても
その店のブツが
食いたいんだという
リクにしたって、
この手もあんまり
使うべきじゃあないものの、
少しぐらいの
距離があったとて、
あっと言う間に
移動できる手段があるのだ、
作り方を睨んで
“う〜んう〜ん”と
眉を寄せているなんてのは、
何がどうしたんだかと、
少々解せなかった
ゾロだったのだが、

 「学園祭とかとは
  関係なくてサ、
  俺ら、
  来週の家庭科で
  ケーキ焼くんだよ。」

 「家庭科。」

ああ そういえば。
エプロン縫ったり
ミトンを編んだりと、
柄にないことへ
時々頑張らされとったなぁと
思い出し。
だがだが、

 「ケーキって…
  教科書に載ってる
  作り方で
  作るんじゃないのか?」

何しろ半数が
男子なら大半が初心者だろうし、
学校の施設にだって
限度があろうから、
仕上げに
表面をバーナーで炙りますだの、
大量のチョコレートガナッシュを
一気にスポンジにそそぎかけ、
表面をむらなく
コーティングしますだのといった、
突飛な手間の掛かるものは
そうそう作らせまいにと
訊き返せば。

 「うん。
  基本は
  ショートケーキ
  なんだけどもな。」

春にカップケーキ焼いたから、
今度は
スポンジケーキ焼くんだと、
身を起こすと
眺めていた本を
テーブルへとわざわざ広げて、

 「たださ、
  トッピングっての?
  飾り付けの
  生クリームやフルーツは、
  自由に組み合わせて
  いいんだって。」

それとスポンジも、
ココア風味のとか
抹茶にしてもいいって
選択肢があってさ、と、
わくわくっとしたお顔になって
説明するルフィさん。

 「ウチの班は
  けっこ器用な
  顔触れぞろいなんで、
  だったらモンブランってのも
  いいんじゃないかって
  話になってサ。」

基本の土台は
ショートケーキと
同じスポンジなんだし、
“丸く筒にして
そこへもクリーム詰めて”
っていう手間だって、
厚みのあるスポンジを
ふっくら焼いて、
水平に二段に切り分けて、
クリームや
スライスしたフルーツを
挟むってのと
さして変わんないしって、

 「女子が言ってたけど
  どう思う、サンジ。」

 「う〜ん、
  その子はかなり
  手慣れてんじゃね?」

 その子としては、
 少しだけ薄いスポンジを焼く
 手際の方へ
 慣れてんだろな、きっと。

  そか、
  任せるんなら
  いこーに沿った方が
  いいかな、やっぱ。

 いこー?
 ああ、意向な。
 悪い案じゃないと思うぜ?
 何せ分業で掛かれるし…と。

いつの間に
降臨なさったものなやら、
隣の一人掛けソファーに
腰を下ろした金髪のシェフ殿が、
器用そうな指で
レシピ集をぱらぱらめくりつつ
助言を出しており、

 「…呼んでねぇぞ。」

 「呼ばれにゃ
  来ちゃあいかんのか。」

俺はランプの精じゃ
ねぇんでな、と。
やや御伽話めいた
言いようをした
聖封さんだったが、

 「…そうだよな、
  あれはクシャミをしないと
  出て来れねぇ。」

 「それも
  ちょっと違うぞ、ルフィ。」
 「ちょっとか、おい。」
 「え?え? そうなのか?」

いつの生まれだあんたという、
ツッコミともボケとも
言えないお言葉が
坊やから挟まったことで、
大人二人の睨み合いは
何とか回避された様子。

 「なに、
  ケーキがどうのこうの
  なんてな、
  俺の独壇場な
  話をしていりゃあ、」

 「呼ばれて飛び出て
  ジャジャジャジャ〜ン♪
  しちゃうよなvv」

  それは もういいって。(苦笑)



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