■天上の海・掌中の星 3

□冒険は、でも ナイショ?
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今年も暑い夏が来て。
昨年も相当に暑かったと
思うのだけれど、
今年のはまた、
格別な暑さじゃあ
ないのかなぁと。
パジャマがよれよれなのは
いつものことだが、
何だかべたりとする肌なの、
変なのと思いつつ、
眠たい眸をぱしぱしさせつつ
子供部屋から
階下の居間へと降りてゆけば。

 「起きたな…って、
  まだ眸ぇ
  開いてねぇんじゃねえのか?」

ゆったりとした、
袖のない濃紺の
ボートネックシャツ、
愛用のエプロンと共に着付けた
Gパン姿の破邪殿が。
お徳用パックの
あら挽きウィンナーのソテーを、
フライパンから
中皿のレタスの上へ
ザザザァッと空けながら、
おやまあと
軽く目許を眇めて見せる。

 「昨夜は暑かったのか?」
 「おお。
  そうだったみたいだ。」

覚えてねぇけどと、
パジャマの裾から手を入れて、
腹や胸元を掻くのは…やはり。

 「まさか
  アセモじゃなかろうな。」

 「う〜〜、どうだろ。」

返事を皆まで聞くことなく、
手早くフライパンを
コンロへ戻してからの、
ゾロの一連の動きの、
何とも的確だったことか。
それは大股にさっさかと、
ぼやや〜んと立ち尽くしていた
坊やに歩み寄り、
ひょいと抱えると風呂場へ直行。

 「え〜〜、
  朝シャンなんて
  やんねぇぞ、俺。」

 「シャンプーだけの
  話じゃねぇよ。」

  あんま暑いなら
  エアコン使えって言ったろがよ。

   だってよ、節電の夏だぞ?

  無理から我慢してまでとは
  誰も言うとらん。

   そいでもよ〜。

若かろうが元気だろうが関係なく、
熱中症は見境ないのだと、
いちいち言い聞かせるのも
まだるっこいとばかりに。
問答無用でお運びし、
到着したのは風呂場の脱衣所。
さあ汗を流せよと
降ろしてやると、
ちぇ〜っと不服そうに
頬を膨らませるものの、

 「急がねぇと、
  ラジオ体操に
  間に合わねぇぞ。」

 「あ……。」

相も変わらず、
小学生相手に“指導員”を
請け負ってる坊やであり、
それはまずいぞと、
一気に目を覚ましたところで、

 「朝飯の用意は
  出来てっからな。」

あわわと
パジャマを脱ぎ始めた
坊やの背中を、
苦笑混じりに見やってから。
来たとき同様、さっさかと、
大きなストライドで
キッチンまで
戻っていった破邪殿で。

 “単純な奴だよな、
  相変わらず。”

朝っぱらから
シャワー浴びろというのと、
ラジオ体操に
間に合わないというのは、
実はワンセットには
なってない事柄だってのに。
むしろ、
尚のこと
“そんな暇は無い”と
切り返せたのにね。
あっさりと
“しまった急がなきゃ”と
大慌てになる辺り、

 『選りにも選って、
  マリモ野郎に
  丸め込まれるとはな。』

聖封さんに、呆れられてしまうのも
無理はないかも知れません。





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