■天上の海・掌中の星 3

□蒼月宵
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天聖界の住人が、
それも…
随分と覇力も濃密にして、
威容に満ちた存在が
すぐ傍らにいるからとはいえ、
それが何を意味するかを
理解や把握が
出来ないような連中も
少なくはない。
悪意あっての、
作為があってのそれじゃあなく。
次元の歪みに
巻き込まれた格好で
こちらへやって来たクチの
存在に至っては、
向こうにとってもとんだ災難。
そこには居られぬ空間に
放り出され、
あまりの痛さや衝撃に
飲まれた末のこと、
正気を失くして
暴れているものに、
そんな状況把握なぞ
そもそも無理な相談なのであり。




 「久蔵、元気してるか?」

 「みゃうにぃ!」

 「そっか、元気か。
  俺も元気だぞ。」

 「にゃうみぃ、にゃんvv」

 「そうそう、
  最近は暖かいよな。
  あんな雪降ったなんて
  信じらんねぇくらい。」


それは和やかな
夕食後のひとときに。
その子もまた、
ルフィには知己のうち、
ひょんなことから知り合った
仔猫さんとの、
お電話トークに
かかっていた坊やだったのを。
話題になっているその通り、
あの厳寒期に比べれば
いくらかは暖かくなったのも
事実ではあるが、

 「る〜ふぃ、靴下。」
 「うん。」

子機を抱えての
ソファーの上、
はだしの足元を
抱え込むような格好、
胡座をかいて座っているのへ、
陽が落ちてからは
まだまだ寒いぞと、
ほれとソックスを
出してやったその間合い。

 「みゃっ、
  にゃい・にぃっ!」

 「え? どした、久蔵?
  なに慌てて…。」

受話器の向こうという、
微妙に遠い相手に
異変があったらしく、
どしたどしたと
相手を案じて慌てるルフィをこそ
“?”と見やったのも
束の間のこと。

 「  ………っ。
  ルフィ、」

言葉での指示ももどかしく、
腕を伸ばすと…
坊やがシャツに重ねていた
カーディガンの襟元、
がっしと掴んでの
思い切り引いているゾロであり。

 「な…っ。」

何すんだと
驚いたらしき
ルフィのいた場所へ、
無理から
何かの光源を当てての
意味のない像の
映写を試みようと
したかのような。
空間がねじれたような
どこか不自然な光が射して来て、
それと認める間もないほどの
瞬時に消えた。

 「………え?」

まだ十代で、
動態視力のいい子なだけに、
そこから遠ざけられてのこと、
視野の端も端の現象だったろうに、
ルフィにもそんな不自然な
“何か”は見えたようで。
そうともなれば、
何だ何だと慌てることも
ないままに、
大きな手にて引き寄せられた、
頼もしき破邪の傍らへ、
自分からも
駆け寄るようにしての
身を寄せる。
あくまでも“対処の邪魔”を
しないようにとの
心掛けであり、
得体の知れない気配に弾かれて、
怖がり恐れてのことじゃあない。
言ってみれば、
それもまた
二人の呼吸のようなものであり。
上背のある
緑髪の破邪殿の手には、
いつの間に召喚されたか、
把に白い糸を巻かれた大太刀、
彼の得物の
精霊刀が握られていて。

 「迷い出た場所が
  悪かったな。」

ぶんと高々
振り上げられたそのまま、
雄々しき腕が一閃されると、

  ―― 〜〜〜〜〜〜っっ!!

声とも音とも言えぬ、
何かしらの衝撃波が鳴り響く。
窓ガラスや
キャビネットの扉を震わせたあと、
テレビ前のラグの縁、
バタンと
めくり上げたのを最後に。
確かに感じられていた
気配のようなものが
ふっと掻き消えて。

 「……にゃっ、
  みゃうにぃ?」

 「   あ。」

その手に持ったままでいた
子機からの仔猫の声で、
はっと我に返れたルフィ。
何でもないぞと告げつつ
見回した室内には、

 “???”

そのまま宙へと
身を溶かし込んだか、
ほんのさっきまで、
すぐ傍にいたはずな
ゾロの姿が
影さえ無くなっていたのだった。





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