■ロロノア家の人々

□お伽話はいかが?
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 その部屋には大きめの有明を2つも置いてあり、障子の向こうは、廊下の縁側の雨戸を閉じてすっかり暗いにもかかわらず、畳も、部屋の中央に2組敷かれた布団も、黄昏時のような温かな明るさに染まっている。
襟と前立ての縁取りが黒いビロウドの、茜色の綿入れをパジャマの上に着た妹御は、毛布から乗り出すようにはみ出させた胸から上を、母御のお膝に枝垂しなだれかかるように乗っけていて、まるで小さな猫の仔みたい。
自分のお布団に入っている小さな兄の方は、うつ伏せた格好で枕に両手で頬杖をついていて。すぐ傍に座っている母が伸ばしてくる手に、淡い緑色の髪やすべすべの頬を撫でてもらって、こちらもうっとりと嬉しそう。

「…そいで、母ちゃんは約束したんだ。
 グランドラインを
 ぐるっと一周して来たら、
 また会おうって。
 必ず戻って来るから、
 そのときにケンカの続きを
 しようなって。」

「クジラさんは?
 それで良いよって?」

「おお。
 ぶお〜〜〜って鳴いて、
 約束したさ。
 そいで"誓いの印に"って、
 おデコんとこに、
 でぇっかい海賊のマークを
 ペンキで描いてやった。」

「お母さんが描いたの?」

「ああ、そうだ。」

「クジラさんて、
 物凄く大きいのでしょう?」

「母ちゃんたちが
 船ごとお腹に入ったくらいだ。
 そりゃあ大きいさ。」

「そのおデコに描いたの?」

「そうだ。
 こ〜んな太い筆を抱えて、
 走り回って描いたんだ。
 この部屋より…いいや、
 この家くらいは広かったからな。」

 胸を張る母の言葉に、

「凄ぉ〜い。」
「お母さん、
 お絵描きするの好きだもんねvv」

 子供たちはキャッキャとはしゃいだ声を上げた。それをやさしく見やりつつ、

「さあ、そろそろ寝ないか。」

 促してみるが、

「や。今度はお姫様のお話っ。」

「ああっ、みお、狡いぞ。
 クジラのお話も
 お前が聞きたいって
 言ったやつじゃないか。
 次は俺の聞きたいお話だぞ。」

「だって、
 お昼にお兄ちゃんと衣音くん、
 鮫おじさんのお話、
 また聞いてたじゃない。
 あれ、お父さんもお母さんも
 お怪我するお話だから
 凄っごく怖いのよ?
 ちよちゃんがいたら
 泣いてたわよ?」


 鮫おじさん…。もしかして魚人のアーロンのことだろうか。どちらも譲らず、眠るどころか、小さな拳で小突き合いを始めかかる兄妹に、

「ほらほら、喧嘩しない。」

 ルフィは苦笑を見せながら、手を伸ばしてそれぞれを引き分ける。

「じゃあ…うん、そうだな。砂漠で帆掛けのお舟にそりゃあ上手に乗ってたビビの話をしよう。砂の上をでっかい船で航海してたおっさんたちと会った時の話だ。」

 途端に喧嘩は収まって、

「砂漠なのにお舟なの?」
「砂のおじさん?」

 子供たちは母の顔を見上げてわくわくとお話が始まるのを待った。




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