■天上の海・掌中の星


□夜陰静謐
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 …ふと、眸が覚めた。まだ夜中なのに。肩の先っぽが少ぉし肌寒いような気がしたせいかも知れない。クーラーは嫌いだから使ってはいない。窓を少しだけ開けているだけなので、このところの熱帯夜、蒸し蒸しするなら判るけど…?
「…あえ?」
 そんなこんなを辿っているうち、別なことへも何だか変だなと感じた。自分へとかかる重力が変だ。横になって寝ていた筈が、縦に身を起こしているのだ。いくら寝相が悪いと言ったって、これは物凄くはなかろうか。壁に引っつく以外に"支え"はない筈なのに、ベッドの真ん中に居ながら何かに凭れているらしくて。眸を開けると、目の前には………。

 "えーっと…。"

 それが、黒っぽいシャツの襟の合わせの切れ込みから覗いてる、誰かの胸板…の鎖骨の合わせ目辺りだと気がつくまで、ちょっぴり間がかかった。

 「起きたか。」
 「…ぞろ?」

 懐ろの中、深々と。優しい温みの中へと抱えられている自分だと気づく。ゾロは体格が良くって。背が高いだけじゃあない、背中も胸もとっても広くって。だから、こうやって胸元へと抱き込まれると、ただくっつき合ってるって感じじゃなく、すっぽりと包み込まれてるって感じになる。それに、ゾロはあまり体温が高くない。だから、この暑い盛りでも暑苦しくはなくって………、あれ? でも、なんか寒いんだよな。こうやってると暖ったかいって思えるほどに。
「どしたの?」
 呂律が回らない。頭の大部分が、まだ眠っていようよ状態に(笑)未練がましく居続けているせいだ。だって、とても気持ちがいい。頬をくっつけた胸板は、さらさら温かくて、いい匂いがして。そんな筈ねぇってゾロはいつも言うけれど。俺は畏(かしこ)くも精霊様なんだから、人間にそうまでくっきり確認されるような存在感はない筈だって、むすっと怒ったようになって言うんだけれど。どうしてもそう感じられるのだから仕方がない。瞼が重くて眠いのに、そんでも訊いてみたんだのに、
「何でもねぇよ。」
 ゾロの声は素っ気ない。
「でも。」
 添い寝してもらうほど子供じゃないし、そんなことをねだった覚えもない。何か変だってばと思って、
"…うっと、うっと。"
 ちゃんと起きてないから、頭が回ってないから太刀打ち出来ないのかな。だったら起きて向かい合おう…と思った途端、

「…眠れねぇんでな。
 お前の寝顔でも見りゃあ…って思ってな。」

 そんな声がして、大きな手のひらが少年の丸ぁるい後ろ頭をごそもそと撫でた。
「俺の? 寝顔?」
「ああ。」
 見上げても、相手の顔は見えない。見えないようにわざと、懐ろの深みにまで抱えられているのかもしれない。
「俺の寝顔?」
「ああ。」
 ぶっきらぼうな声で繰り返し、
「…いいから、とっとと寝てな。」
 どこか突っ慳貪な言い方だが、何だか…嬉しくて。ルフィは"うくく…"と笑うと、
「うん。寝るvv」
 素直に瞼を伏せる。だって、とっても気持ちがいい。温かくて、さらさらしてて。いい匂いがして、頼もしくって…。いつもどっか突っ慳貪だけど、我儘全部聞いてくれる。ホントは凄っごいやさしいゾロなんだって知ってる…もん…な………。




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