■puppy's tail


□土曜の宵に… “内緒だよ?”
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 よく手入れされて黒光りのする焦げ茶の柱や窓枠と、それらがそれはくっきりと際立つ、漆喰壁のアイボリーの色合い。小綺麗な庭や周囲の緑にいや映える、古い二階家の欧風山荘は、その昔、政財界でも相当に名のあった郷士の別宅であったらしい。当時はパーティーなども開いたらしく、天井の高い大広間や来客用の個室も数間ほど抱えつつ、外観はあくまでも清楚にして端麗。趣きのあるその佇まいは、よほど頑丈に丁寧に作らせたからだろう、築百年近くは経っている筈だのに、さして補修の必要もないままに揺るぎなく健在。あでやかな桜と萌える若葉から始まって、夏の濃緑に秋の紅葉、冬の雪中の静謐…といった、四季折々の風を感じつつ、代々に様々な主人たちに愛でられて。そして今は。これまでの主人たちの中で最も年若いだろう闊達そうな青年が、愛らしい坊やとともに住まわっている。


 そんなお家からこっそり出て行こうとまで思い詰めていた小さなルフィ。シェットランドシープドッグというもう一つの姿を持つ、不思議な精霊であり、そんな自分がいるだけで大好きなゾロに不自由を強いていると苦しんで。彼をそうまで追い詰めたのはひとえに自分が悪かったのだと、重々思い知らされたゾロであり。照れや気恥ずかしさから…というよりも、過ぎるほどに甘美な安息の日々に耽るあまり、お互いを大事に想う気持ちは言わずとも伝わっていると、共有出来ていると思い込んでいたがため、何も告げぬままでいた怠慢から、無邪気な彼をそうまで不安にさせたと心から詫び、何とか宥めて抱き締めて。

 ― どこにもやらないし、
    誰にも渡さない。

 青年は自分のこの幸せを、彼があってのものなのだと告げ、その想いを…包み隠さず、一切飾らぬ心からの言葉と真摯な声にて囁いて。

 ― 絶対絶対、幸せにするから、
   覚悟しとけよ?

   うんvv 覚悟しとくvv

 愛らしい精霊一族の末裔は、止まらない涙に…それでも頬を染めながら。温かい懐ろの中、やっと幸せそうな笑顔を見せてくれたのだった。




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