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□風のある風景
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 腐れ縁とでもいうのだろうか。気性も信条も、誇りの種類も、恐らくは似たところなぞ1つも無かろう者同士だのに、何故だか互いに認め合うものが少なくはない相手である大剣豪の"鷹の目"が、ある日一枚の触れ書きを持って、こちらの停泊地であった小島へわざわざ訪ねて来た。言葉少なな彼は、

「おもしろい海賊と会った。」

 挨拶もそっけもなく本題に入った。イーストブルーの外れ、グランドラインにほど近い海域で出会ったその小僧というのが、屈託のない見かけでありながら一丁前に"海賊"だとかで。
「貴様が話していたある小僧を思い出したんでな。」
 そう言って彼が見せたのが、政府筋から懸けられた懸賞金が3000万ベリーだという旨を記した触れ書きで。そこには、見覚えのある帽子をかぶった小僧が、きれいな歯並びを見せて笑っていて、

「…来たか、ルフィ。」

 とうとうこの日がやって来たかと、嬉しい不意打ちに身の裡うちがワクワクと騒いだ。まだまだ小童こわっぱには違いないが、それでも…こんなものが配布されたということは、海へと漕ぎ出したのみならず、早くも海軍に一泡吹かせた証しである訳で。ひどい二日酔いに襲われて、朝からこっち、ずっと機嫌が悪かった赤い髪の頭目は、一気に機嫌を直すと勢いづいて"また飲むぞ〜〜〜っ"と気勢を上げたのだった。




 左の目を獣にでも抉られかかったか、瞼を縫い付けようとしたが塞ぐのに失敗した跡という呈で、額から頬にかけて3本の深い傷が走っている。血の紅を思わせる鮮やかな赤い髪に、年齢不祥だけれど若々しい、愛嬌に満ちて人懐っこいが、深みのある男臭い顔立ち。どちらかというと細身の体つきだが、あの世界一の大剣豪、鷹の目のミホークが一目置くのだから、剣なのか格闘なのか、彼と拮抗出来るほどの腕っ節ではあるのだろう。キャプテンコート…にしてはややくたびれた黒マントを肩に羽織り、足元は軽快…を通り越して危なっかしいかも知れないサンダル履きで、威容というものにはまるきり縁のない、極めて気さくな頭目殿である。それでもその配下には、それぞれに腕っ節に優れ、男気に溢れたいっぱしの海の男たちが、彼を心から慕って多数集っている。

「…ま〜だ、見とれてんですかい?」

 何時間経ったのか。どっと沸いた祝宴のボルテージも下がって、迎え酒に沈没した皆々がぐでぐでと伸びている広場から一人離れ、潮風が吹きつける岸壁へと移っていた彼を、副長であるベン=ベックマンが追って来た。昔よほど大きな波にでも抉られたのか、下から見れば所謂"オーバーハング"状態の結構な崖っぷちで、迎え酒がすぎて"二日酔いの二乗"状態の頭目殿が足を滑らせでもしては…と一応心配してのことだろう。縁ぎりぎりまで生えている柔らかな芝草の上に座り込んでいたシャンクスが手にしていたのは、ミホークが持って来た触れ書きだった。

「大したもんじゃねぇか。俺との約束を守ったんなら、海に出たばかりに違いねぇのに、もうこの有り様だ。」

 からからと笑って見せる彼が言う"約束"というのは、十年前の別れ際に交わしたもので、あの麦ワラ帽子を返しに来いと言ったその後、

『だがな、ルフィ。海を舐めるんじゃない。そうさな、あと十年は陸に居ろ。』

 これだけは守れと言い置いた約束だ。
「………。」
 触れ書きに載せられた雑な写真に目を落とし、感慨深げに口を噤んだシャンクスで、ベンもまたそんな彼に合わせて黙りこくったが、その横顔に浮かんでいる表情をさりげなく窺い見て、

"…成程。相当複雑らしいや。"

 そうと判って苦笑が洩れた彼でもあった。





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