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□虹のかけら
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 「…あれ?」

 今日はパンのまとめ焼きの日。さぁてととばかりにシャツを腕まくりして、小麦粉にイースト酵母に、バターに…と必要なものを作業台代わりのテーブルへ集めていたサンジは、塩の壷がないのに気がついた。その長身と長い腕をあちこちへと延ばし、上から下から棚という棚を見て回っている彼に気づいて、
「どうしたんですか?」
 丁度"今日のお片付け当番"でキッチンに居合わせたビビが声をかけると、
「あ、いや。塩が…パン生地に混ぜるんで要るんだが、ビビちゃん、見なかったかい?」
「さあ。あ…もしかして、陶器の白い壷ですか? 胴回りにカニの絵が描いてある。」
「そうそう、それだ。どこで見た?」
「確かルフィさんが…。」
 白い指を扉の方へと向ける。彼が持ち出したという意味なのだろう。だが、
「ルフィが?」
 ビビの言を疑う訳ではないのだが、サンジには少々腑に落ちなかったらしい。
「甘党のあいつが、砂糖壷やはちみつの壷を持ち出すならともかく、だだ辛いだけの塩なんか、一体何に使うんだろ?」
「さあ…。」



 さて、その張本人はというと、
「…何してんだ? ルフィ。」
 珍しくも羊の頭に乗っからず、甲板に紙を敷いてその上に白い結晶粒の山を築いて、その傍にしゃがみ込み、飽きる様子もなくじっと眺めているのだから、同じ上甲板に居合わせたゾロが怪訝そうに声をかけても無理はなかろう。長い脚を投げ出して船端に凭れて座り込み、頭の後ろに腕を回した手枕という、こちらはいつもの格好ながら、

「塩なんかで山作って、
 一体何のまじないだ、そりゃ。」

 言うことがどこか古臭い。傍らの壷にはカニの絵とご丁寧に"塩"とも書いてあって、それを見てそう思う辺り、さすがは武道家というところだろうか。だが、ルフィは首を横に振ると、
「まじないなんかじゃねぇよ。砂糖を作ってるんだ。」
「はあ?」
 ますます怪訝そうに目許を眇(すが)める彼へ、

「ウソップが言ってたんだ。
 塩って干したら
 砂糖になるんだぞって。
 砂糖が塩より高いのも、
 塩から作る手間が
 かかってるからだって。」

 だから、こうしていりゃあ甘いのがたくさん出来るぞと、どこか嬉しそうに語るルフィだが、
「…あのなぁ、ルフィ。」
 ゾロとしては…保護者としての使命感が沸いたかおいおい、一言言ってやりたくなったらしい。
「何だ?」
「塩が天日で干したら砂糖になるっていうんならな、海の水はどうなんだ? こんだけ広い水面をずっとずっと太陽が照らしているが、塩水のままだろがよ。」
「そうなのか?」
「お前はあんまり浸かっちゃいかん身の上だから馴染みが薄いのかも知れんが、少なくとも俺が知る限りではずっとずっと塩辛いままだぞ?」



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