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□モンスターズ・アワー
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 さて、港町というと、皆さんはどんな何を連想されるであろうか。埠頭、紙テープに紙吹雪、銅鑼の音、汽笛、さよならさようなら、好きになった人…って、時代がかってますなぁ。年齢がばれるぞ、自分。あはは 港と言えば当たり前ながら船が着く場所。長い航海を経てやっと辿り着いた久々の陸地だ。これからの新たな航海に向けた消耗品やら燃料やら、食料・飲料水 etc.といったものの補給も大切だが、そんなばかりではいくら屈強なる海の男の船員さんたちだって身が保たない。日がな一日、海と空ばかりを眺めやる毎日。大きな船なら厳しい統制の下、きっちりした管理運営が執り行われているのだろうから、毎日何かと気が抜けないだろうし、小さな船なら、限られた空間に限られた面子だけが押し込められて日々を過ごすのだから、いくら…数え切れないほどの騒動や悶着が降りかかりやすい船での旅路であれ、ちょっとは退屈や窮屈を感じもするというもので。ということで、大抵は乗客も船員たちも束の間の息抜きに羽根を伸ばす町として、船上とは違った環境や刺激という"お楽しみ"が待ってるぜとばかり、飛びっ切りの解放感に胸を弾ませ、期待を込めて上陸して来る。そんな"お客様"たちを迎え撃たんとする町なのだから、はっきり言って歓楽街である。いや、これではちょっと決めつけ過ぎか。歴史と文化と気品あふれる異国情緒で売っている土地もあるだろし。とはいえ、そういう有名どころでさえ、ひょいっと裏道に入ってみれば、娯楽と休息をメインに押し立てて集客を狙う、それに即したカラーに染まっているものだ。そのための道具立てもしっかり揃っていて、土産物屋やプレイスポット、飲食関係の店々が居並ぶ"そっち系の観光地"としても有名であることが少なくはない。


       ◇


「…ふ〜ん。景品つきの肝試しがあるんですってよ。」
 いつもの新聞に挟まっていたのは、ここいら近辺の島の催しの日程を刷ったチラシだった。いつものように後甲板のデッキチェアに座を占めて、今日は何と夕刻間近に届いた新聞に目を通していた女航海士の呟きに、

「"肝試し"?」

 同じビーチパラソルの下、卓上ランプの柔らかな灯火に照らされて、乗用カルガモへ手づからおやつのタルトを分けてやっていた、髪の長い皇女が聞き返す。

「あ、えっと知らない?
 例えば夜中の墓地や廃屋なんかに集まって、
 一人か二人くらいずつに分かれて、
 指定された暗い道順を通ってくの。
 で、途中に驚かし役が
 待ち構えてたりするのを、
 怖がって逃げたりせずに掻いくぐって、
 最終地点までちゃんと
 辿り着けるかどうかを競う遊びよ。」

 いくらかつては"ミス・ウェンズデイ"と名乗っていた諜報員であれ、あくまでも仮の姿だった代物。あまり俗世界のことには通じていないところが多々あるビビではあったが、そこは機転が利くというか反応が早いというか、

「判ったわ、それで度胸を試すのね?」

 ひらめくことが出来たこと自体が嬉しいという喜色が少しばかり滲んだ顔になる彼女へ、
「そうそう。」
 ナミもついつい微笑ましげな顔になって頷いて見せる。
「こういうイベントなら、驚かす方もさぞかし凝ってるでしょうから、そう簡単にはクリア出来なかったりするのよね。」
 夏の夕べの夕涼みに於ける暑さしのぎのイベントといえば、盆踊りに花火と肝試し。日本ではそういう歳時のものとされているが、西洋では幽霊はもっぱら冬に出るそうで。寒いわ、日は短いわという心細いところへなおゾッとさせるという相乗効果を狙ってか、それとも日本のような"盆"という習慣がないからか。おいおい チラシにはさらに細かい宣伝や詳細やらが書かれてあって、それによれば、常設のものではないらしく、何日か前に他所から来た一団で、1週間ほど広場を借りての興業だとか。移動遊園地やサーカスみたいなものかと思っていただければ、判りやすいかな?

「賞品は…10万ベリーと記念品か。
 奢ってるわねぇ。」

 Morlin.の大好きな都筑道夫さんの時代小説にも時々出てくる江戸時代のお化け屋敷でも、最後まで通り抜けられた度胸のあるご婦人には反物一反…なんて具合に、本当に賞品が用意されていたそうである。季節ものだということもあるが、ある意味"見世物"の一種なので、しっかりした土台に組まれた小屋は少なく、もっぱら丸太組みの小さな迷路のような作りだったとか。それでも精一杯の趣向を凝らして、名代の怪談のセットや獄門首の生き人形などを並べ、夏の宵を楽しんだそうだから、そんな遊び心が粋である。…とは言うものの、実は Morlin.はオカルトやスプラッタが大の苦手なので、物心ついてからはあんまり入ったことがない。最近のはカートに乗ってりゃ出口まで運んでくれるタイプは減って、歩いて進まなきゃ出られず、しかも人形ではなく生身の役者さんが演じるバージョンのが流行なんですってね。うううっ、そんな怖いの、よく入れるな、皆さん。



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