PIECE MAIN


□“スキ”と“キライじゃない”の狭間における近似値について
1ページ/2ページ



押しても引いても動じぬ相手に、
言葉が走り過ぎて、あるいは何かしら まだるっこしい想いに焦れて、
時々、喧嘩になる。
「ゾロなんか嫌いだっ!」
ぶつけるような勢いで言っても、剣豪殿は大人だから、
「ああ、ああ、そうかい。」
なんて冷然と言い返して来れたりするくらい、平気な顔でいる。
けど、そういう喧嘩は原因さえ曖昧で、
気がつくと…うっかり忘れてこちらから話しかけていたりして、
あっと言う間にシチュエーションごと吹っ飛んでいて、
2日と続いた試しがないのだが。
………こういうの"独り相撲"って言うんだって。


       ◇


 事例 その1>
  俺がどんなに"頭に来たぞ"って怒っても、
  いつだって平気でいるくせに、
  俺へと降りかかってくるものには本気で怒って見せる。
  敵の振り下ろす蛮刀、吹っ飛んで来た岩の破片、
  喰いつこうと躍りかかって来た獣。
  届く限りをぶった切り、弾き飛ばし、
  真剣本気の鋭い眼光で相手を睨(ねめ)つける。
  …なあ、これって不公平じゃないか?

「………。」
「何だよ、お前まで怒ってんのか? ナミ。」
「…呆れてんのよ。」
 組んだ足の膝頭へ肘を乗っけて頬杖をつき、何をのろけに来たんだか…と小さな声で呟いて、
「なあ、何でだ? 何で俺だとゾロを怒らせられないんだ?」
 また変なことにこだわるんだから、この子は〜っと思いつつ、それでも一応は言葉を尽くして相手をしてやる。
"そのうち、この部屋に『よいこの相談室』なんていう看板が下がる日も近いかもね。"
 ナミさん、ナミさん、話を戻して。(汗)
「怒らせてどうすんのよ。文字通りの"リーサル・ウェポン"なのに、おいおい それが不機嫌になられたら鬱陶しいったらありゃしないわ。大人しくしててくれた方が安泰でしょうが。」
 御説、ごもっとも。だが、我らが船長さんにはそれではご不満があるらしい。口唇を尖んがらせて、
「だって、怒るってのは本気だってことだろ? 本気同士でなきゃ"喧嘩"とは言えないじゃないか。」
 人間、暇になるとろくなことを考えない。これを『小人閑居して不善を為す』という。小人かどうかはともかく、このところ戦闘もなく至って平穏なればこそ、こんな詰まらんことをぐりぐりと思い詰めているルフィなのだろう。
「怒るばっかが本気とは限らないわよ。それに…ちょっと待ってよ、あんた結構ゾロのこと怒らせてない?」
「…そうだっけか?」
 首を傾げるルフィだが、
「ふらふらと危ないことばっかり選んだり、無茶したりして、結構しょっちゅう怒鳴られてるじゃないよ。」
「あ、そういえば。」
 ぽんっと手のひらに拳を打ち付けて…こらこら、思い当たってる場合かい。とはいえ、事細かに言われて思い出したくらいだ。そっちはあまりにも日常茶飯化している事なので、本気がどうのという次元とは少しばかり趣きを異にするのだろう。それに、
「でも、ゾロは怒鳴るだけで本気で怒ったことないぞ。」
 だそうだ。そんなルフィの言に、
"そうかしらね。"
 化け物たち?の基準は一般人??には判らないしなぁと、ナミとしては半信半疑だ。そういや公的にも?一度だけありましたよね。あわや殺し合いになるかという"二大怪獣大戦争"ばりの大喧嘩。(in ウィスキーピーク)あれを素手で制止したナミさんの、一体どこが“一般人”なのかはよそ様のサイトでも既に諸説紛々、あれやこれやと取り沙汰されているから、ウチでは敢えて触れないことにして、こらこら
「まあ、喧嘩するほど仲が良いって言うし、相手が本気じゃないことへこだわりたくなるのは判らなくもないけど。」
 小手先であしらわれているようで、なんだか歯痒い。ルフィが感じているむず痒さの正体は、とどのつまりはそれだろうと"ナミせんせー"は目串を刺した。
"お子様なんだか、成長期真っ只中なんだか。"
 一方で、
「喧嘩するほど仲が良い? 変じゃないか? それ。」
 新しい疑問を抱えたらしいルフィへ、ナミは肩をすくめて見せた。
「前にも言ったでしょ? 本気で本音を言えば場合によっては喧嘩にもなる。でも、それって何も遠慮しないで相手に裏表のない自分を見せてるって事だから、気の置けない間柄、つまりは仲が良くなきゃ出来ないことでもある。そういう意味よ。あんただって…ゾロが嫌いなわけじゃないんでしょ?」
 最後のフレーズはちょいと引っ掛け気味な間の取り方をして、何でもない付け足しのように聞いたのだが、
「うん。」
 間髪を入れずに頷いたものだから、
"…即答したわね、こいつ。"
 その呆気なさについ吹き出したくなったが何とか耐えて、
「喧嘩は喧嘩。好きか嫌いか、とは、別問題なのよ。」
「それはそうなんだろうけどさ。」
 煮え切らない声を出す彼に、ああ、もう…っと付き合い切れなくなったナミは、だが、ぷっつり切れる直前に、
"…!"
 ふと、何か思いついたらしく、

「じゃあ、試しに頼んでご覧なさい。」

 とある企みを吹き込むことにした。
「何を?」
「嘘っこで良いから"お前なんか嫌いだよ"って言ってみてくれって。」
「…え?」
 キョトンとするルフィへ、殊更やわらかく"にぃ〜っこり"と微笑って見せる。
「そうしたら、多分色んなことが判るわ。そう…色んなことがね。」

  ………小悪魔でんなぁ、
   ナミさんてば。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ