■ルフィ親分捕物帖


□幸せの赤いこよりと 白い○○○○vv
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季節は晩秋。
晴れの日も多く、
実りの声があちこちから聞かれる、
正にいい時分である。
もうちょっとすると年末に向けて、
世間様は大きく傾いての、
どっちを向いても、
やれ年越しだ、
やれ掛け取りだと、
金持ちも貧乏人も皆
慌ただしくもなるのだろうが、
そんなこんなに駆け出す直前の、
ちょっぴりお暢気な季節。
山々を飾る木々の彩り、
赤や黄色の紅葉の錦が、
素っ気ない秋の空に
いや映えるのを遠目に望んで、

 “時間は
  書いてなかったってのが
  難点だったよな。”

はぁあと
内心で溜息ついてるお人がいる。
いちいち
確かめたりはしないが、
その懐ろの中には
小さな紙の切れっ端が
仕舞われており、
赤い和紙の、
元はこよりだった代物で。
しかもその裏には小さな筆書き、
あんまり上手とは言えない筆跡で、
彼へ向けての
伝言がしたためてあったりも
したそうで。
それによれば、
下町に差しかかるところの
地蔵橋で待つとのことだったが、
実際に待っているのは
こちらの彼の方だってのが
また穿っている。

 “今日の昼過ぎってのも、
  曖昧が過ぎてどうかと思うぞ。”

第一、
手紙代わりにすんなって
さりげなく言っといたのによ。
誰ぞが盗み見たらどうすんだ。
誰かは知らんが
其処に来る奴がいるんだ、
こりゃあ
逢い引きの合図っぽいから、
もしかして
付き合いを禁じられてる
大店のお嬢様とかが
出入りの若いのとの
出合いを約束しての
もんかも知んねぇ、
横車入れてやっての
脅して金にするべぇなんてな
勝手な想像から
待ち受けるような、
すけべぇで
悪どい奴が出たらどうすんだ。
それでなくとも
お前ぇさんは、
どうもこう、
妙に放っておけないってのか。
いや、
頼もしいって評判は
山と聞くけどよ。
そんでも…いつまでも
子供みてぇな顔してっし小柄だし、
物の言いようも考えようも、
そのゴムゴムの力で
飛んでく時みてぇに
いつまでもどこまでも
真っ直ぐが過ぎるしよ。
ちょっと強かな奴だったなら、
演技と口八丁繰り出しゃあ、
ひょいって軽々、
足元を掬えるっての。

 「あ、いたいた、
  坊さ…じゃね、ゾロっ。」

独りで悶々と考え込むうち、
想いが悪い方へ悪い方へと
傾きかかってたのさえ押さえ込み、
仏頂面のままで
橋のたもとに突っ立っていたお坊様。
ついでに…
そのお顔がいかにも
苦行を積んで刻まれたものと
解釈されたか、
お布施も結構、
托鉢の鉢や袋に
集まっていたところの、
まんじゅう笠に
墨染めの僧衣という
雲水姿のお坊様へ目がけ。
たったか
軽やかに駆け寄ったのが、
こちらさんは
格子柄の着物を
尻っぱしょりにしての
藍色股引という軽快な恰好、
まだまだお若いが
これでも町の治安を預かる
岡っ引きの親分さんで。
本人のお名前は
“ルフィ”というのだが、
いつも背中に下げてる
麦ワラ帽子から、
麦ワラの親分というのが
通り名だとか。
これでも大急ぎで来たらしく、
お膝に手をつくと肩で息をし、

 「すまねぇ。
  ゲンゾウの旦那から
  ちょっと話ィ聞かされててさ。」

 「はは〜ん。
  また何かドジやったな?」

特別な千里眼だの推理だのを
持って来なくとも、
この親分の、
お元気が余っての暴走は
いつものこと。
手甲を巻いた武骨な手で、
あちこち擦り切れた
まんじゅう笠の縁を
ちょいと上げながら。
くすすと精悍に笑って見せた
お坊様からのご指摘へ、

 「ち、違わいっ!////////」

途端に
真っ赤になった親分さん。
お務めの上での失敗は、
ここんとこ一個もないやいと、
ムキになっての
怒り出すものだから、

 「ああ、すまねぇ。
  ついつい勝手なことを
  言っちまったな。」

許しとくれなと
更に笑って口角を上げる。
見様によっちゃあ、
鋭角が増しての
凶悪なお顔になるってのに、

 「〜〜〜判った、
  許してやらぁ。////////」

ちょっとだけ
見惚れたのも癪だぜ畜生と、
ますます真っ赤になってる
親分だったりするところが
相変わらず。
まま、確かにこのお坊様、
男ぶりはすこぶるつきに良い。
あちこちぼろぼろの僧衣を
ごちゃごちゃまとっているから、
ちょいと見には
判りにくいことだが。
これで結構 屈強精悍、
胸板は厚いし、
二の腕や腰や腹は堅くて強いし、
何と言っても
顔立ちがきりりと冴えての
男前なので、
野生味あふれる笑顔が良いとか、
チンピラ相手に
不敵そうな顔になっての
凄む時の頼もしさが良いとか、
妙齢のご婦人たちから
こっそり騒がれても
おいでだったりし。
………良いのか、
隠密なのに目立ってて。(苦笑)

 “そうなんだよな。”

え? えええ?
なんですて?

 “この坊さん、
  正体不明つか、
  神出鬼没なんだよな、
  相変わらず。”

あ、ああ。そうかそっちね。
あ〜びっくりした。
親分さんには相変わらず、
真の正体は判らぬ
お坊様でもあって。
夜中に張り込んでたりすると、
どっからか不意に現れて、

 『おや、
  お役目ご苦労さんです。』

そんな言って
熱っつあつの肉まんを
くれたりもする。
悪党を追ってて、
何でだか逆に
取り囲まれたりしていると、
必ず飛び込んで来ての
加勢をしてくれる。

 “坊さんて、
  24時間営業なんだろか。”

………う〜んん。(苦笑)
救急病院とそれから、
教会なんかは
そうだって言いますけれどもね。
礼拝堂は
いつも開いてて当たり前ってのが、
一応の基本だそうで。
でも、
今時は物騒だからと
扉閉めちゃってる。
いやな世の中になりましたねぇ。

 「で?
  何か用があったんじゃないのかい?」



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