■ルフィ親分捕物帖


□月に雁
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 結構な人の数があふれていて、そりゃあ活気あふれてにぎやかに栄えているご城下に、何ともお元気、その暴れっぷりがちょいと派手めな捕り物で有名な、岡っ引きの親分さんがいた。その名もモンキィ・D・ルフィといって、まだまだ子供の延長みたいにお若くて屈託のない親分さんだが、いざ悪党を前にすると、そりゃあもう凄まじい腕っ節にて何十人でもあっと言う間に平らげてしまう凄腕で。しかも、物の道理の基本というか、人情味あふれる捕り物をなさることから、駆け出しと言ってもいいほどの若さながら、町の人々からも慕われている、評判の親分さんだ。

 ところで、余計なお世話の注釈を入れるなら。岡っ引きというのは、現在でいうところの警察官や巡査のことではありません。政府の機関内の奉行所が正式に抱えているのは与力とその下の同心までで、十手を預かる親分さんってのは、正確には同心の旦那方がポケットマネーで雇っている、言わば非常勤の捕り方、若しくは情報屋みたいなもんでした。よって、お侍さんじゃあないのに役人のような鷹揚な振る舞いをするのは実は筋が通らない。起きたばかりの事件に於ける、容疑の濃厚な人間のお調べならいざ知らず、お詮議の筋だなんてだけの言いようで、特に怪しいところのない人を強引に番屋まで引っ立てていっての取り調べなんてもの、勝手に手掛けていいという資格まではホントを言うと持ってなかったんですねぇ。十手も本来は懐ろの奥深くに隠して持ってたそうです。身分がバレちゃうと情報集めが出来ませんからね。住んでる地域で顔の利く存在がその任に就くことが多かったので、義理人情に厚い親分さんだったりすりゃあ、泣かせるお話が伝わってたりもする訳ですが。その逆もさぞかし多かったことでしょうなぁ…。

 余談はともかく。事件の渦中にあって奔走中だったり、いよいよの捕り物の真っ最中という場合を除いて、ルフィ親分が大概はここで腰を据えてると言っても過言じゃあないのが、めし処“かざぐるま”で。今日も今日とていつもの席で、定食と丼ものと、具のいっぱい乗っかったおかめうどんとを調子よく平らげてから、おもむろに“はぁ〜あ”なんて溜息をついていたりして。

「どしたの?ルフィ親分。
 浮かない顔してさ。」

「難しい事件かい?」

 お気楽な楽天主義者で“考えるよか行動”派で通ってる親分なので、ちょいとやり過ぎての暴走も多々やらかすものの。これでも時には、絶妙な勘が冴えての“大物一本釣り”を敢行しちゃうこともあり。よって、目に余る失敗やら暴れ過ぎなんてな迷捕り物をやらかしても、それと相殺してあまりあるお手柄も立てているということで、結果、お勤めしている南町奉行の皆様からはお覚えもいい…という順番になっている、何ともややこしいお人であり、

「手柄立ててくれるんならいくらだって知恵くらい貸しますよん?」

 いつもだったら二言目には“ツケ払って”と眉を吊り上げてる女将のナミが、妙な猫なで声を掛けていて。

 「ナミ?」

 「…ナミさん?」

 それは一体どういう風の吹き回しだと、ルフィのみならず、板前のサンジまでもがギョッとして、ついつい男二人でひしと抱き合ってしまったものの、

 「だってそれでご褒美が出れば、
  ウチのツケ、
  少しでも返して
  もらえるんだろうしさ。」

 ああ、何だなんだ、そうだったですか。あ、こら、気持ち悪いから離れろよ。何だよ、サンジの方から先に抱き着いて来たんだぞ。だあ、やめろ、そんな気持ちの悪いこと活字にすんな…などなどと。相変わらずの脱線ぶりをご披露してから、

 「う〜ん。
  実は気になる奴がいてさ。」

 ルフィ親分、目許を眇めて鹿爪らしいお顔になり。そんなことをば口にする。他にはお客もいない昼下がり。
「気になる奴?」
 カウンター…もとえ、配膳台の縁へと凭れて煙管をふかしているサンジが訊き返すと、
「ああ」
 それは素直にこっくりこと頷いてから、
「いつぞやのビビ姫の騒動ん時に助太刀してくれた坊様なんだけどもよ。」
「ああ、あの。」
 あのややこしい修羅場に、そいや居たなあ、そんなのが、と。こちらも何となくで覚えていたらしきサンジが相槌を打ったところへ、

 「あれからも、
  色んな事件の現場へ
  駆けつけるたんびに、
  姿見かけるんだよな。」

  ――― え?

 くどいようだが、このルフィは岡っ引きの親分さんである。よって、犯罪の匂いがするところを“現場”としている訳であり、
「それって、怪しい奴だってこと?」
 そんな場所でしょっちゅう出喰わすということは、気になるどころの話ではないのではなかろうかと、今更ながら、話への構え方を改める“かざぐるま”のお二人であり、
「やっぱ怪しいのかなぁ。」
「そうよ。あんたも、だから気になってんじゃないの?」
 何たって岡っ引きなんだしさと、選りにも選ってナミさんから言われて、
「…そっかな。そうなのかなぁ。」
 なんて言って、う〜んなんて考えあぐねている頼りなさ。自分の身への危機意識が薄いのは、腕っ節に自信があってのことでもあろうが、
「そんな本格的なのは、ご公儀の役人とか本職の目明かしに任せなさいよ。」
「そうだよ、危ないって。」
「おいおい、俺だって目明かしの岡っ引きだっての。」


  ――― お後がよろしいようでvv




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