蜜月まで何マイル?
□His Favorite...
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「別によ、酒が飲めねぇでチョコレートやケーキが大好きな"海賊王"がいたって、一向に構わねぇと思うぜ? 俺は。」
「………。」
「まあ、まだ先は長いんだから、先々でいつかは飲めるようになるかも知れねぇ訳だしよ。焦るこたぁねぇんだって。」
「………。」
「それに…うん。酒飲まねぇとヤバイってな場面なんてのは、そうそうないと思う訳よ。"固めの杯"なんてな儀式だとか、よほど特殊な毒でも食らったとかいうのでもない限りはな。」
「………。」
「無理から勧めるような奴がいたら、俺やこいつに振り向けりゃあ良いんだしよ。」
ここで初めて、ただ黙って同じ部屋に居たもう一人が…ご指名にあずかったからか、おもむろに口を開いた。
「安心しな。お前にまで協力を仰ぐことにはならねぇからよ。」
分厚い胸板の前へ高々と腕を組みつつ、壁に凭れて憮然とした顔付きのままのそれは短い言いようだったが、その言い回しの中に色々と込められていたものは、しっかりと相手へも伝わったらしくて、
「ほおぉ、そりゃあ安心だな。有り難いこったぜ。」
こちらもまた、何かしら含みがありそうな言いようを返すシェフ殿だ。当然、分かりやすいまでの"挑発語調"だったため、
「んだとぉ?」
途端に眉を逆立てもって受けて立ってしまう剣豪殿であり、
「お、やんのか。」
腕まくりならぬ"両手をポッケに"の臨戦態勢、眇めた視線を睨み上げるように差し向けつつ威嚇を返すシェフ殿との間合いが、見る間にぐぐっと詰まったが、
「…いい加減にしてってば、
二人ともっ。
ルフィ、
頭が痛いって言ってんだから、
騒ぐんなら出てってくれよなっ。」
ベッドの際に付いていた小さな船医殿からのきっぱりとした一言には、
「お、おお。」
「…悪かった。」
さしもの双璧たちもたちまち我に返って意気消沈。そっか、この人たちに勝ちたかったなら気合いが肝心なんだな、うんうん。 いきなりの台詞の羅列で幕を開けてしまった今話だが、あらためて彼らの立っている状況を眺め回してみるならば。
まず、舞台である此処は、我らがゴーイングメリー号のデッキ部のキッチンの隣りにある"医務室"で。只今現在のお時間は…下ろしたてのさやさやと清々しい空気に、よく晴れた空からの陽射しが満遍なく行き届いた、すっかり明るいまだ午前中。この部屋にはしっかりしたベッドが据え付けられており、デッキという空気のきれいな位置にあり、加えて水回りにも近いことから、海賊世界に於ける最強クラスの陣営でありながらも時折は怪我人が出る彼らの、所謂"ICU(集中治療室)"代わりに使われている。とはいえ、塞がることは滅っっ多になくて、日頃は、頼もしき船医のチョッパーが薬の調合や保管・管理に使っているか、お子たちの組が雨の日だけ此処でお昼寝をするのに仲良く身を寄せ合っているくらいのものなのだが。
今日は先にも述べたように上々の天気にもかかわらず…お子たちのうちの一人にして、この船の船長、将来は天下の"海賊王"を目指しているところの、モンキィ=D=ルフィくん(17歳)が、それは辛そうに眉を寄せ、頭を抱えてベッドの真ん中に身を縮めて横たわっている。
原因は…のっけの会話から既にお察しの方もおられるだろうその通り、許容範囲以上のアルコール飲料の摂取による"二日酔い"である。ジュースと代わらないような甘いデザートワインを舐める程度でほんのり頬が染まるというほど酒に弱い彼が、なればこそ"許容量"とやらに至る前にあっさり眠ってしまう筈な彼が、なんでまた寝込むほどの"二日酔い"状態に陥っているのかと言えば………。