蜜月まで何マイル? 2

□春一番
1ページ/7ページ



     1


 ちょいと視線を上へと上げれば、澄み渡った春の空が青々と広がり、甘い風も穏やかで気持ちのいいお天気の、それは素晴らしい航海日和。誰の手が、意志が、及んだものでもない、まさに天然の賜物であり、ああいい気持ちだなあと深呼吸の一つもしたいところだが…地上はそれを許さない喧噪に満ちあふれ。よく言ってそれは生き生きとした活気に満ちた此処は、所謂“市場”のど真ん中。

「凄いねぇ〜〜〜。」

「ああ。
 こうまでにぎやかな市場ってのは
 久々じゃねぇか?」

 随分な幅と長さがあるらしい大通りであるが故、当分の距離の間には視野を遮るようなものの一切存在しなかろう中。青く晴れわたった空の下が、見事なまでに人・人・人…で埋まっている様はまさに圧巻としか言いようがなく。

「本来は、ほれ、あっちとあっちの隅に並んでいる建物の一階部分だけが、所謂“店舗”って奴だったんだろうにな。」

 そんな店舗と向かい合うように、すぐ前の歩道部分にも屋台が店を広げ、その背中側の、恐らく荷馬車が通っていたのだろう大通りに向いての出店が増え、それを見て通る人の反対側にも荷車が停まり…という案配で。まるでプラットホームが幾つもある駅のように、何筋もの人の流れに洗われる、出店の“島”が幾つも形成されてる、今の現状へまで発展したものと思われて。

「ここいらは海も穏やかだが、こっから先は俺らが乗り切って来た寒い海域の手前だからな。」

 冬島海域のしかも真冬を航行するなんて、普通の感覚ならばまずは避けること。海こそが住処の海賊でさえ、その数カ月ほどは何処ぞの島影で冬籠もりするものだってのに、お初の航路へ臆しもしないで突っ込んでった向こう見ず。急ぐ理由なんてなかったのにね。強いて言えば、一つところに居続けする方が、彼らにもそれから…居られた方にも苛酷だったから。(う〜ん) それでとただただ前進を続けたまでのことだった“大例外”な彼らの話はともかくとして、

「行きにせよ帰りにせよ、補給の船は必ず寄る。冬島へ向かう船は燃料や食料をたんと積まにゃあならんし、冬島からの船はすっからかんになってる貯蔵庫を埋める資金にって、珍しいものを置いてくから、そういうものを専門にしてる筋の輩も買いつけに来る。そんな船の行き来のせいで、こうまでの栄えっぷりなんだろうさ。」

 市いちが栄えるのは悪いことじゃあない。農作物や手仕事にて作り出した細工物などの余剰を交換し合うことから始まった“商業”は、そのまま人と人との“交流”でもあり、経済は土地と土地の絆をつなぎ、ますますの“豊かさ”を広げもする。また、そういった物流に乗っかって様々な“情報”も行き来し、文化文明の普及・伝播に拍車をかけ、人類の進化・進歩を加速させる原動力にもなる。

「?? 最後のは何なんだ?」

 キョトンとするチョッパーへ、

「だからよ、東の里ではこういう栽培法を使ってるとか、西の国でこういう発明品があるそうなとか、これが南で流行ってる機巧・道具だとか。人の工夫や発見がまだ知らないって土地にも素早く伝われば、それを応用した上での“先のもの”を次の奴は考え始めることが出来るだろ? もうとっくにあるものを、基礎から立ち上げるという時間の無駄を省ける。」

 かつては自分もそういう交易点でもあった海上レストランにいたからか、サンジは事もなげにそうと説明してやって。片や、あまりの厳寒に覆われた冬島海域島に生まれ育った、しかもトナカイさんだったから、外の世界を殆ど知らなかったチョッパーにしてみれば。人がその長い歴史の中で紡いで来て発展させた知恵と工夫の一端を新たに知って、

「ほええ〜、そっかー。」

 素晴らしくってしょうがないというお顔になるのが、何とも素直で愛らしいったら。シェフ殿の言った“無駄”ってのは言い過ぎかもですが、情報の共有により“もっと先の物”をという工夫の進化に一足飛びに取り組める。
これの整備されたものが“特許”なんですね。特許というと、発明を知的財産とするという考え方の下に設立されたもの…とだけの印象が強いものの、実は実はそれだけじゃあない。それはもう別の人が発案して完成させているよ? と広く知らしめることで、せっかくの優れた知力と時間の無駄遣いをしないでね? という“効率”を考えて立ち上げられたものでもあるのだ、いやホントに。

「ま、そういう歴史っつか高尚なお話はいつでも出来る。とっとと補給の買い物を済ませようや。」

 なかなかの繁盛っぷりは島ごとを潤しているのか、港もまた大きく賑わっていたので、船や帆にちょちょいと細工し、一般の商業船を装って入港したところ、さしたる詮索も細かい審査もないままに、あっさりと上陸を許可された彼らであり。海賊からの襲撃がなかった分、とっとと通過出来たとはいえ、我慢も強いられた冬からの脱却という弾みもあってのこと、心浮き立ち、見るもの全てに目移りするのは分かるけど。次の島までのログがたまるのに1日しかかからぬ当地でもあるので、やるべきことは手早く済ませようとばかり、補給の主なもの、食料の詮議担当者が荷物持ちたちを促したところが、

 「…あ、ゾロだ。」



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ