蜜月まで何マイル? 2

Treasure hunting
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 書いたのが
 03年という古さですので、
 いつにも増して、
 あちこちアレですが、
 どうかご容赦くださいませ。




     1


 周囲を青い空と碧い海に取り囲まれた大海原のど真ん中であっても、たとえば海賊の襲撃やら海軍の臨検やらと、向こうからやって来る"お客様"はあるもので。そういった"人的襲来"以外にも、通りすがりの強大なイルカだの、海王類だの。はたまた、いきなりのハリケーンや竜巻だのと、油断してはいられない来訪者もあるものだから、毎日結構忙しい。
こういった何かしらの来訪者がまるきり無くたって、賑やかなことが大好きな船長さんがいる限り、思いもよらない大騒ぎにも事欠かなくて。お陰様で…単調で退屈な船旅というもの、彼らはこの"ゴーイングメリー号"にてはあまり体験したことがないという。おいおい そんな彼らには珍しいことに…ここ数日というものは、海の上は元より、港のある島々に立ち寄っても大して悶着も起こさぬ航海を続けていた。


  「る〜ふぃ〜。」

 猫撫で声になった時のナミほど用心の必要がある人物はいない。大事な仲間には変わりなく、無論のこと"悪い人間"でないのだが、何でもない時ほど茶目っ気が働いて"人が悪い"人物になりたがるため、何か企んでいるのか、はたまた………何にか静かに怒っているのか。どっちにしても額面通りに受け取ってはいけない"優しそうな素振りの彼女"だからだ。とはいえど、

「あん? 何だ? ナミ。」

 もうメシか?と。ミカンの樹の鉢が並べられたキッチンの屋根、通称"ミカン畑"で屈託なくもむっくりと身を起こしたのは、麦ワラ帽子のよく似合う、我らが"麦ワラ海賊団"の少年キャプテン、モンキィ=D=ルフィ船長である。

「メシって…
 まだお昼には間があるわよ。」

「そか。寝てたからな、
 時間が分かんねくてよ。」

 くぁ〜〜〜っと大きく口を開けるルフィに、ナミも思わず苦笑する。ここいらは春島海域であるらしく、入ってこっち、それはそれは穏やかな気候が続いていて。日頃何かと"退屈だよ〜〜〜"と騒ぐことの多いルフィでさえ、穏やかな日和と素直に仲よくなって、それは大人しく くうくうと、うたた寝に身をゆだねていたらしい。正青の空へと両の拳を突き上げて、大きく背伸びまでして見せるルフィの様子へ、オレンジ色の髪をした航海士嬢は苦笑が止まらない様子。

「暢気なもんねぇ。」

 ルフィの自然な体内時計では、昼間はお元気、夜中は眠いが基本な筈なので。それがこんな陽の高いうちから熟睡しているだなんてと呆れたのだろう。それと、

「さっき着いたのよ? この島に。」

 そういえば船は泊まっているらしく、主帆も巻き上げられている。だが、

「島って、そんな筈は…おおうっ!」

 いきなりひょいと到着するだなんて、そんな馬鹿な話があるかいと笑いつつ、それでも視線で示された右側を見やって…いつも誰かを驚かせてばかりいる側のルフィがそれは大きくのけ反って驚いた。

  「島だ…。」

 青い空と碧い海だけが漫然と続いてた筈の視野の中に広がるは、確かに立派な島である。喫水の高い船端から十分に見渡せる結構な広さの緑の林と、そこへと至るは…それは綺麗な弧を描いている純白の砂浜の入り江。割と平坦な土地であるらしく、林の向こうや島の中央部に山だの丘だのという高みは見えないが、これはやっぱり、確かに、立派な"島"だろう。

「でも、一体いつの間に?」
「だから、
 あんたが寝てたうちに、よ♪」

 にこやかにとんでもないことを言うナミだ。いや、確かに、ルフィが"くうくう"とうたた寝している間に着岸したのではあるが。

「けど…。」

 このルフィが声もなくという感じで仰天するのも無理はない。航行中に遭遇するところの島とか陸とかいうものは、曲がり角を曲がったら突然出合い頭に登場する…というようなものではない。群島の中からとある一つをと選んで目指してでもいるのでない限り、相手は障害物のない大海原の上にあるのだから、見通しのいい視野の中、随分と早くにその存在をこちらへ知ろしめす筈なのだ。
極端な話、水平線の上に輪郭が見えたならそれでもう"島が見えるぞ!"と運ぶ筈。そして、そうともなると…到着までに色々と準備をしたり、ワクワクと気が逸はやったり、そんな"前哨戦"のにぎわいに、皆してどこか落ち着けなくなるというものだのに。見張りに立ってた面子たちは元より、クルーたちの皆して、朝からずっと昨日までと何ら変わりない穏やかなムードでいただけに、ルフィには唐突に現れたようにしか思えなかった。そして"…ということは?"と、そんな事実から何かしら導き出されるものがある筈だのに、

「凄げぇ〜〜〜vv」

 そんな瑣末なことは置いとくのか、いきなり現れた島そのものと、この奇跡というか手品というのかへ、素直に大感動しているルフィであるらしい。キッチン前のデッキから見上げてくるナミも、その向こう、主甲板にいるウソップやチョッパー、ロビンたちも、彼のそんなはしゃぎようについ釣られてか、くすくす笑いが止まらないでいる。
無邪気で屈託がなく、素直な船長。そんなで"海賊"という物騒な肩書きを名乗るのは危なくないかと案じたくなるくらい、今時には珍しいほどに天真爛漫な破天荒船長。そんな具合で見かけも言動も至って幼いが、実は実は途轍もなく度胸があって懐ろ深く。ここ一番で見せる実力は、ほんの数カ月であっと言う間に彼をして"グランドライン"に於ける億単位の賞金首に押し上げたほど…というから恐ろしい。だからこそ、若いに似合わぬ凄腕のエキスパートたちがその傘下にするすると集まった、言わば"奇跡の船"なのかもしれないが、そういうシリアスなプロフィールは今更だからおくとして。

「あのね、
 今日はあなたの
 お誕生日でしょう?」

「? そうだっけ?」

 久々の分かりやすい"ワックワク"が止まらないらしい、キラキラしたお顔の船長さんは、自分の生まれた日をやっぱり覚えていなかったらしくって。

「それでね、あたしたち、
 この島にすてきな宝物を隠したの。
 それを見つけて来るって
 ゲームはいかがかしら?」

「お宝?」

「そうよ〜vv
 とっても"良いもの"をね、
 隠したの。」

「何だよ。
 そんで俺んこと、
 起こさなかったのか?」

「ま、そういうところかしらね。」

 おやおや、一応は気がついたのね。島が見えたと騒がなかった、皆して口裏を合わせて、ルフィに気づかせなかったらしいという段取りのこと。

「けど、お宝って何なんだ?」
「バっカねぇ、
 ここで言っちゃっちゃ
 面白くないでしょう?
 1時間毎に
 チョッパーがヒントを
 授けてくれるから大丈夫。
 勿論、
 それだと迷子にもならないでしょう?」

 ナミは妙なことへと胸を張り、そして、

「あ・そっか。」

 それにあっさりと丸め込まれている船長さんでもあったりするのだった。…大丈夫か? そんな軽くあしらわれてて。(笑)




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