■puppy's tail 3

□初秋の涼風
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 おねさん、こんにちは。
 あんなあんな
 暑ちゅかったのに、
 今はなんか
 しゅじゅちいでしゅね。
 (涼しい、と
  言いたいらしいです)
 朝とか晩とか、
 わんこになったら
 そーでもないでしゅけぇど、
 そでないまんまは、
 くしゅんが出ましゅ。
 晩は そーそー、
 しゅぐに真っ暗になぃましゅし。
 はやく帰んなきゃメですよって、
 マーマや ちゅたしゃんにも
 言わりてましゅ。
 おねさんも、
 はやく帰んなきゃメでしゅよ?
 おねさんのマーマのかぁりに、
 カイがメッて しときましゅ。



    ◇◇◇


いや本当に、
今年も半端じゃあない暑さの
夏でしたが、
そしてそれが、
九月に入っても
延々と続くでしょうなんて
言われておりまして。
被災地のかたがたは
大変だろうなぁなんて
案じておりましたら、
その足元を掬うよに、
近畿を襲ったのが
二つの大型台風で。
殊に、
和歌山は大変な被害が出ており、
しかも、
少しでも雨が降れば
土石流の氾濫が危惧される
地域もあって。
そんなこんなで、
いまだに瓦礫の整理に
手が出せぬところも
累々とあるとかで。
人の迂闊からの事故も
居たたまれませんが、
自然の起こす災害は、
人の手が
どれほど強く器用になろうと
敵いはしない存在なこと、
まざまざ
見せつけてくれますよね。


  そういった
  残念なことが
  幾らでも撒き起こっては、
  気鬱のタネも
  なかなか無くなりはしない
  今日このごろではありますが。


 「うわあ〜〜、
  いいお天気だな〜っ。」

 「いー おてんきっ!」

両腕を思い切り振り上げての
天へと突き出し、
うあぁっと歓声を上げる、
無邪気なおっ母様の
すぐ傍らから、
片方のお手々は
ママの腰辺りに掴まったまま、
うおーっと真似ごと半分に、
やはりお手々を突き上げている
坊やなのがまた、
何ともかんとも可愛らしくて。

 「本当に。
  晴れてようございましたね。」

土曜日曜や祭日ほど、
予約が入ってのお仕事となりやすい、
アスリートにもてもての、
カリスマインストラクターな
お父さんなので。
平日こそ
お出掛けをすることとなる機会が
多いご一家なのだが、
今週は
週の頭から曇り空、
昨日は一日じゅうの雨。
週末から連休になっての
お父さんが忙しくなる前に、
お外が暖かいうち、
どっかへお出掛けしておこうと
計画していたものだから。
なかなかに晴れ切らぬまま
日が過ぎて、
しかもしかも
日を追うごとに気温も下がっての、
文字通り
冷や冷やさせられたけれど。
明け方は肌寒かったのも、
陽が昇れば
ほどよく暖められての
丁度いい案配、
きゃあい〜っと駆け回れば
あっと言う間にじんわり汗が出て、
上着なんてポイッてほどにも
暖まるいいお日和。
この頃では
ベビーカートも要らない坊やが、
それでもまだまだ
どこか覚束ぬ足取り、
お膝も曲げぬまま、
とてとたと駆け出したのを、

 「あ、カイ、待て待て。」

転んだらどうするかと、
それでなくとも
上背のあるお父さんが、
屈強な
見るからに頼もしい体を屈ませ、
待て待てと
不器用そうに追うのがまた、
何とも微笑ましい構図だったりし。

 「おはようございます。」
 「あ、本山さんトコのvv」

通りすがりの、
お散歩中の
わんこ連れのご近所さんなどから、
あらまあと
微苦笑されてもいたりするが、
まま、いつものことなのでと、
今更 態度を変えるでなし。
むしろ、
坊やを見失っては一大事と
そちらを優先して
駆けてってしまった父上に代わって、
ツタさんがこんにちはと会釈をし、
ルフィが“あはは…vv”と、
乾いた笑いで
お愛想を振り撒いて
いたりするのもお約束。
何しろ、

 「キャ〜vv の〜vv」
 「あ、こら。」

はしゃぎ過ぎの度が過ぎてか、
ぱさんと飛び込んだ
茂みの中での早変わり、
出て来た時は あら不思議、
真っ白いウェスティくんでした
…なんていう、
大人には ひやりものの
お茶目もやらかす坊やなので、
目が離せないことこの上なくて。

 『今のところは
  見つからずに
  済んでるけどな。』

勿論、そんな
“昨日まで大丈夫だったから…”
なんていう、
いい加減なことを
保証にしてはいけないのは
百も承知の皆様なので。
単独での駆けっこから
置いてかれては一大事、
ご挨拶は他の家人へ任せてでも
追っかけるのが
パパさんのお仕事で。

 「きゃあい〜〜vv」
 「カイ〜、待て待て♪」

まま、不器用そうに見えても、
振り切られることはないのが
自慢の体力パパだから、

 「それしか取り柄がないとは
  言わないけれどもねvv」

 「当たり前です。」

奥様、少しはご遠慮を…と
窘めるツタさんだったが、

 「何言ってるかな、ツタさん。」

  本人に聞こえたら
  どうすんの。
  ゾロって、
  おだてられると
  案外 隙だらけになる
  タイプなんだって。

 「……それ、
  誰からお聞きに。」

 「ん?
  えと、ナミさんだったか
  サンジさんだったか。」

  おいおい。(苦笑)

そうこうする内にも、
きゃーい〜vvと
はしゃぐお声が 戻って来、
自分で
とたとた走るより断然速い、
お父さんの肩車で
戻って来た坊やだったのへ、

 「あ、ずるいぞ、
  カイだけ。」

俺も俺もと、
小さい子供と同じよな
頑是なさにて、
まだ坊やを抱えたまんまの
旦那様の腕へと
まとわりつく辺り。
ほんのついさっきまで、
おだてに弱いのどうのと、
ご亭主を捕まえて
大人びた言いようをしていたお人が
まあまあと。
ついのこととて、
ツタさんへ苦笑を誘うのも
相変わらずな、
可愛らしいご一家だったり
いたします。




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