■月夜に躍る
□good-night baby♪
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◇
―― きし…っ。
空耳か、それとも単なる"家鳴り"現象、家の軋む音かなと。気づいたとしても、そんな風に解釈して頭の中から追いやってしまい、元の作業や思考へ とっとと戻るような、それはそれはささやかな気配。ホントだったなら、こつりとか ギシリとか。少ぉし年期の入ったフローリングの床の板張りを、体重移動に合わせて軋ませる足音がついて回る筈なのだが、音どころか気配も、匂いもしない。
だが、間違いなくそこには"とある存在"が、悠々とした態度と足取りにて"侵入"を果たしており。町中の夜のこととて、漆を流したようなというほどのそれではないものの、間違いなく夜更けの夜陰が立ち込めている時間帯。一応は戸締まりをしてあった筈の町家の二階にいきなり現れた、気配のない"影"さんであったが、
「………こんな坊主の閨ねやに
夜ばいかける趣味があったんか、
貴様はよ。」
そんなお声が掛けられたと同時。閉じ損なってたカーテンの隙間から忍び入る、仄かな月光の青い光に濡れて、ちゃきりと物騒な鍔鳴りの音と共に閃いたは………。
「冗談でも
そんなご大層な
牛刀を構えるのは
やめてくれんか。」
「お前でも怖いか。」
「いんや。」
こっちも本気になっちまうからだと、いつの間に引き抜いたのか、彼の武器であるスティール鋼の大太刀"和同一文字"を手に、不敵な笑みを男臭いお顔に浮かべたのは"侵入者"である青年であり。そんな彼のきっちり消されていた筈の気配を嗅ぎ取って、相手が分かっていながら刃渡り30センチはあろう洋包丁という物騒な武装をもってして"お出迎え"をして見せたのも、同世代だろうスリムな肢体をした青年である。
「俺はこの坊主に
呼ばれたから来たんだがな。」
「こんな遅くなるなら、
先触れのメールくらい寄越しな。」
こそこそとした声でやり取りしていた二人だったが、
―――ふにゃ…。
うにゃむにゃという寝言のような小さなお声が、部屋の片隅から漏れ聞こえたため。この組み合わせでは珍しい、示し合わせのための目配せをし合うと、そのまま坊やのお部屋を後にしたお兄さんたちであったりする。