■puppy's tail


□お待たせしましたvv
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 五月とか直前には、台風が来たりもして結構ザカザカと降ったのに、肝心の梅雨入り宣言の後、六月半ば以降はあんまり降らなかったような気のする今年の梅雨で。都心なんかは一気に真夏日が続いたりして、まだ七月の前半だって言うのに、もう夏バテだとぐったりしている人も少なくはない。
冗談抜きに昔に比べると平均気温も随分と上がっているのだそうで、アスファルトやセメントで地面に蓋をしたり、川を埋めてまで道路を作ったりしてるからなと、ニュースを観ながらゾロが眉間のしわを増やしてた。
ここいらでは、そうだな、昼間はさすがに…ちょこっとは暑くなって来たかなぁ。うん、そうそう"るう"のカッコでいるのはちょっとキツイかなって時がある。一応、夏毛に生え替わってるんだけどもね。汗かかないから、やっぱりきツイかなって。人の姿の方が水浴びとかもしやすいし、冷たいお菓子も一杯食べれるしネvv
 だっていうのにサ、わんこのカッコの方が好きだっていう、やんちゃ坊主が増えたから………ねぇ♪




     ◇



 全国的に真夏日を記録し云々と、テレビのニュースでは言っていたけれど。ここいらはまだ、さほどには"酷暑"という暑さではなく。それでも…いつの間にか、空の青みの深さが濃くなったような気がして。ヒマワリの深黄、キョウチクトウの鮮赤、トルコキキョウの純白などが、地上にあふれる翠にだけでなく、空の青にもいや映える"原色"シーズンの到来という観がある。

 「るうちゃ〜ん?」

 相変わらずに働き者のツタさんが、パタパタとスリッパを鳴らしながら…広いお屋敷のあちこちから外へと声をかけて回っている。そろそろお昼時。なのに、食いしん坊な誰かさんが戻って来ない。今のところはまだ、平生の安穏とした閑静な風情を保っているものの、来週辺りにでもなれば、都心から避暑にとやって来る若い世代の方々でにぎやかになる別荘地。やたら頻繁に出掛けている“るう”なのは、そうなる前に奔放に遊び回りたいといういつもの事情………とは別に、今年ならではな事情もあって。

 "………此処かな?"

 お出掛けから戻って来るとしたなら此処からよねと、お庭に面したテラスに出られる大きな窓のあるリビングへ辿り着いたそのまま、窓辺に座って傍らに置かれた籠からバスタオルを取り出し、お膝に広げて待つこと数刻。

  ― たたたっと。

 春の初めに比べれば、健やかなその緑に深みも増した芝草の広がる上を、ぴょこぴょこ跳ねるように駆けて来るものがある。バレーボールより小さめ、ソフトボールよりは大きめの、純白の………ふかふかした毛玉であり。時々勢い余ってつんのめり、お顔を芝生に擦りつけそうになりながらも、頑張ってテンションを上げたまま"たかたか…"と駆けて来た"それ"は、小さな前脚の先の小さな足を、これも頑張って伸ばして敷居へ引っかけて。それからこちらを円らな瞳で見上げて来て、

 「あん・ひゃんっ!」

 聞き馴れない幼い声は、ワンというよりキャンとかニャンと聞こえるほど頼りなく。とはいえ、ご本人には目一杯の力が籠もったお声なのだろう。吠えた勢い、反動に跳ねる身体が、そのままよたよた押されたようになって後ずさりしかかっているのが、見ていて本当に微笑ましい。懸命に背伸びをしている小さな体のお尻、ピンピンと忙しく振られている短いお尻尾もまた、何とも可愛らしくって。

 「お帰りなさいましvv」

 あらあら、今朝は先に帰って来ちゃったんですねと、小さな身体を両手でひょいと掬い上げ、お膝に人間の子のようにお尻から座らせて、前足後足にくっつけて来た泥汚れをタオルでごしごしと拭ってやる。お外から帰ったら、まずは あんよを拭くこと。約束をちゃんと覚えてたのは偉い。綺麗にしてもらってお家に上がったおチビさんは、てことことリビングを歩き回ってあちこちを"ふんふん"と嗅ぎ回っていたが、愛らしい仕草でいちいち小首を傾げてから…こちらへと向き直り、

 「きゅうぅ?」

 いないよ?と言いたげなお顔がまた、何とも言えず可愛らしいvv ただでさえ小型犬、しかもその仔犬なので、顔も胴も手足もどこか寸が詰まっており、愛らしいようにとわざわざデフォルメする縫いぐるみのお手本に出来そうなくらいに、もうもう堪らなく可愛らしくって。決して"可笑しくて"という訳ではないのだが、その仕草や表情にはいちいち微笑わずにはおれないツタさんでもあるそうな。そんなところへ、

  ― かささ…っ

 庭先から木の葉擦れの音がして、顔を戻せば…アジサイの茂みから がささと飛び出して来たのは、今度はいつものお馴染みなやんちゃさんのお姿である。

「お帰りなさいませ。」

 真っ直ぐに窓まで駆けて来た、こちらもふかふかな毛並みの可愛らしいワンコ。先に戻って来た子が純白だったのに比べると、頭や背中、尻尾に黒や茶の色が載っていて、尖ったお鼻に胸の毛並みが誇らしげに膨らんだ、シェットランド・シープドッグくん。お外は少し暑かったのか、口から舌を出してはうはうと息が荒いけれど、いきなり飛び込んで来たりはせずに、まずは片方の前足を窓の敷居にちょこりと乗っける。先に戻って来たおチビさんよりは大きいから、背伸びをすることもなくの仕草でこなせて、その手をツタさんからごしごしと拭ってもらうと、次は…と残りの前足も差し出したが、

 「あうんっvv」

 そんな彼の方へと、おチビさんが たかたか まろぶように寄って来た。お帰りお帰り、まだ帰ってなかったんだと、嬉しそうに擦り寄ろうと駆けて来たのがありありしており、そのまま敷居から飛び降りかかった…のだけれど。

 「……う"〜〜〜。」

 そんなおチビさんの鼻先、ちょんっと自分の鼻面を押し当てて動作を制し、それから…喉の奥でかすかに唸って見せまでしたシェルティくんだったものだから。

 「う・うう…。」

 突々かれた勢いに、ではなく、唸り声に窘められて。真っ白なおチビさん。後ずさりした後脚がもつれて、そのままお尻からぽそんと、フローリングの床へ座り込む格好になってしまった。はしゃいでいた気勢をぴしゃんと叱られて、ふみみと萎んでしまった小さなワンコ。当たり前ながら…ほとんど無言のままの彼らのそんなやり取りへ、

 "あらあら、どうなるのかしら。"

 そうと思いつつ、後から戻って来たシェルティくんのあんよも、慣れた手つきでてきぱきと、きちんと拭いてあげたツタさんのお膝へ、お礼のように くぅんくぅんと頬擦りした"るう"ちゃんは。やっと上がって来たそのまま、おチビさんの方へと寄ると、一丁前に項垂れてるお顔を持ち上げるように、ぐいぐいと何度も舐めてやる。
せっかく拭いてもらったあんよなのに、また汚してどうするのと、さっきはそれを叱ったるうちゃんだったらしくって。叱られたのへ…拗ねないで反省したのはいい子だと、それで舐めてもらっている模様。
押し負かされそうになりながらも、お顔を上げたおチビさんがそちらからも舐め返すと、お鼻とお鼻をくっつけ合って、仲直り完了vv ぴょこりと立ち上がったおチビさんの後ろ首を軽く咥えて、ゆったりとお尻尾を振りながら奥へと入ってゆく るうちゃんの貫禄に、

  "お母さんらしくなりましたことvv"

 ツタさん、やっぱり微笑が止まりませんでした♪





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