■puppy's tail


□新緑、萌ゆる
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 ゾロに初めて ちうから始まる一晩中の"いい子いい子vv"をしてもらった夜は、朝からサーサーと静かな雨が降っていたのを覚えてる。確か…四月の初めの、菜種梅雨とか花冷えとかいう頃合いのこと。それからそのまま海カイをお腹に身籠もって。そいで俺の…正体っていうか、普通の人間ではないんだよってことをツタさんにお話しして。あと、親身になって仲良くしてもらってる、東京のナミさんやサンジさんにも話しておいた方がいいかなってことになって、わざわざ此処へ来てもらって説明したのが、そういや このくらいの時期だったような。

 "もう そんなになっちゃうんだ。"

 先日のとある日にも、ゾロと俺とが初めて逢った日っていうのをお祝いした。そもそも俺は、ゾロのお父さんのミホークのおっちゃんと一緒にここで暮らしてた。
おっちゃんもあんまり人付き合いっていうのが好きじゃなかったそうで。そいで…怪我をしてた俺の父ちゃんと俺との世話をすることを"これ幸いな理由"にして、世の中から姿を晦ます"蟄居っていうのをやってたんだって。
でも、父ちゃんが亡くなってから半年ほどもした頃だったか、急におっちゃんまで身体の具合が悪くなって。俺も頑張って傍に付いてたんだけど………。
その訃報っていうのを弁護士さんから知らされたゾロがこのお家に来てくれて。そいで初めて逢うことになったんだよね。
優しいゾロは、俺が独りぼっちになるのが忍びないからって、そのままここに一緒に住むことに同意してくれて。でも、それからの何日か何週間かはサ、まだ"単なる同居"って感じだったんだよね。
その頃のゾロは、あんまり人付き合いっていうの得意じゃなくて。それと俺の方も方で、居辛くなったら…自分が辛いとか相手に迷惑かけそうとか、そんな状況になったら早く出てかなきゃいけないぞって、父ちゃんから教わってて。だから、今にして思うとさ、甘えっ子ぶってはいても、案外と…内心ではどこか及び腰でいたのかもしれない。いつでもすっぱり見切れるように、そのまま出てって良いように しとかなきゃって。でもさ、それって、

 "…ちょっとキツかったよな。"

 だってさ、そんな風に構えようって思うより先、俺ってば早くもゾロに捕まってたと思う。目許なんか切れ上がってるし、がっちりとした体格だし。自分に自信があって、その分の気勢っていうのかな、負けん気? そういうのの迫力が視線とか声とかに乗っかってるから、初見だと取っ付きにくくも見えるけど。実は実は、真面目すぎるくらい純朴すぎるくらい、誠実で優しくてとってもいい人で。
ただネ? 正しいことを必ずしも真っ直ぐに貫けない、都会の会社っていうところでの"ややこしい人間関係"っていうのに辟易してたらしくて、それで。ちょっと不貞腐れたような、気難しそうなお顔になってたんだって。ナミさんに言わせれば"不器用な人"なんだってvv なんか可愛いよねvv 
そんな素敵なゾロを好きになるのは簡単で。ミホークのおっちゃんの息子さんだよって紹介された時、あっと言う間に一目惚れしちゃったし、おっちゃんにも物凄く感謝した。こんな素敵な人を残してくれててありがとうって。………随分あとで、ゾロ本人から"それって何か違わないか?"って怪訝な顔されたけど。おや? 何かおかしいことなのかな?(笑)

  "…だから。"

 だから尚のこと。好きになればなるほど。こんなややこしい自分が一緒にいることで、ゾロに迷惑かけたくないと思ったし。なのにね、自分からこっそりとお別れするのがすごく辛かったの。
時々シェルティの姿になっちゃう俺。勝手な作用でそうなる訳じゃないけどさ、自分の意志で制御していることだけどもさ。ずっとずっと人の姿の方だけでいると、身体中がむずむずして来て、なんか…無理からずっと正座ばかりさせられてるみたいな窮屈な気分になるから。やっぱり犬の方の姿っていうのも俺には必要であるらしくて。
それと、好きな人との子供だって、あのその…それなりのコトの果てには生まれるし。////// しかもその子は間違いなく、俺の方の種族の特性を引いてしまう。そういうのが大変だとか辛いとか、そんな業を背負って生まれるなんて子供が可哀想だとか思うなら、それなりのことをしなきゃ良いと、口で言うほど簡単じゃあない。
自分の血、自分の分身である"子供"を残すというのは自然の摂理だからね。ましてや好きな人との子供だもん。作りたいし生みたいって思うのは当たり前じゃない。………こういう考え方もまた、俺が純粋な人間じゃないから思うことなのかな。

  "人間って、
  そういうことを
  意志で割り切れちゃうんだから
  凄いよねぇ。"

 悲しい先々を思えばって、自分の意志で制御出来ちゃうんだもんね。涙ながらに身を引いたり、あと、子供が育ちにくい世の中だからって、出来るだけ生まないようにいようって構えたり。

『う〜ん、どうだろな。
 特に"偉く"はねぇだろ、
 そんなの。』

 ゾロはそんな風に言ってたけどね。そういう制御をしちゃうのって、やっぱり不自然なことには違いないんだって。そうしなきゃいけないような、例えば…今の時代は生きにくいからって親が子育てを尻込みしちゃうようなとか、こそこそとしたお付き合いの"ふりん"っていうのをしちゃうようなとか、そういう困った社会にしちゃったことが、そもそもいけないんだって。

  ………都会の大人の社会って
    色々と難しいんだね?





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