■puppy's tail
□ドっキドキの…vv
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いよいよの春を前に、木立ちの足元に ふきのとうが顔を覗かせていたり、気づかぬうちにちらほらと、梅の枝に蕾が膨らんでいたり。本山さんのお宅の茂みの沈丁花の濃緋色の蕾が、甘い香りのコサージュみたいにお目見えしてたりするのへ、何だか訳もなく心が浮き立ってしまって。
"♪♪♪"
るんたったvvと足取りも軽く、長い毛並みをなびかせながら、木洩れ日の中を突っ切って。街の中心部を真っ直ぐに通っている"メインストリート"まで、たかたかと軽快に出て来かかったその拍子、
"…あれれ?"
何だろうか、人だかりの気配がして。油断しまくっていたその脚を ひたりと停める。暦の上では"春"だと言っても、まだまだ吐息は白いほどの寒い時期。もうちょっと手前の都心に近い辺りとかか、逆に温泉地として拓ひらけてる方へ下った街ならともかくも。何にもないに等しいこの辺りに、しかもこんな時期、親類知人を訪ねてという以外のお客人はなかなか珍しい。なのに、
"何か、沢山来てるのな。"
歓声を上げてるとか、そうまで喧しくは騒いでおらず。また、音楽を鳴らしているとか、やたらと掛け声を上げているとか、お祭りか何かのような賑やかさでもないけれど、それでもね。どちらかというと年嵩な住人の多い土地だから、若い闊達な人たちが大勢で集まってて、立ったり座ったりと機敏に忙しく動き回っている様子なんてのは そうそう見られないことで。
"何だろ。"
実を言えば"興味津々"ではあるけれど、放し飼い状態の身であまり人の前に出るのはよろしくない。野良犬扱いされて通報されたり、可愛いなぁって ひょいって抱えられて勝手に連れ去られたりしかねないからで。
"う"う…。"
持ち前の好奇心がムクムクと盛り上がりを見せつつあるのを何とか押さえつつ、ふさふさのお尻尾とふわふわのお耳を興奮からピンと立てたまま、旦那様や坊ややツタさんが待っているお家への道を選んで たかたかと帰ることにした、ただ今 シェルティの"るう"くん Ver.の姿でいるルフィ奥様だったのである。