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「んんっ!?」

そう、俺は今とてつもなく良い物を見つけてしまった。

机の上に無造作に投げ出された黒色のプラスチック製のソレ。
前に彼が掛けていた時に借りようと思ったんだけど、サンジ曰くお前の馬鹿力で壊すだろうから駄目だって言われた。
そんな事ないって、俺だって何でもかんでも壊す訳じゃねーしって言ったけど日頃の行いがどうのとかで、気がついたときにはソレが何処にあるかも分からなくなってたんだ。

カチャリと音を立ててソレを机から摘みあげる。


「確かこんな感じで・・・・」


黒色の取手を人差し指と親指で持ち上げ顔の正面から掛ける。
少し大きめなソレは、辛うじて鼻に引っかかったお蔭で、ズレ落ちずにすんだみたいだ。


「鏡は〜どこだ〜?」


軽く節を付けて歌いながら、ガサゴソと物入れの中を探す。
一見ガラクタしか入っていない様に見えるが、その実ルフィにとっては、一つ一つに思い入れがあるものばかりだ。所謂ルフィ専用の宝箱って訳だ。


「あった!」

手の平にすっぽりと隠れてしまうぐらいの小振りの鏡を己の顔の前に持っていく。
この手鏡も航海の途中で寄った何処かの島で拾ってきたものだった。
白地にピンク模様が入った手鏡は幾分ルフィにとっては乙女っぽいがこの際は関係ない。


「んー何か違うな。」


右手で鼻先までずり落ちているソレを目の高さに合うように持っていくが、想像していたものと違い首を傾げた。


「サンジがするともっとカッコイイんだけどな」


なんでだと首を傾げつつ、黒いソレがずり落ちない程度に鏡に向かってポーズを決める。


「わっかんねー」


うわぁーと唸り、両腕を天井に向かって突き上げた。




「何がわかんないって?」

「うわっ!?」


急な声に驚き、誤って手から離れていった手鏡を上手い具合にキャッチしたサンジが背後に立っていた。



「って、お前それ掛けんなって言っただろ!」

手鏡を返されるついでにバシッと頭を叩かれる。


「いってぇー!!」



ずれるソレを右手で支えたまま左手で叩かれた箇所を摩った。


「良いから、ソレ返せよ」
「やだ!」
「あぁ!?」


無理やりにでも奪い返そうとするサンジの手を掻い潜り逆に彼の背後へとまわる。
すると早くも諦めたのか、はたまた呆れたのか、短く息を吐きだすと胸元を漁り煙草を取り出しカチリと火をつけた。


「何なんだよお前・・・」


言葉に合わせ唇の端に銜えた煙草とそれに繋がる紫煙が僅かに揺れた。
眉間に寄せられる皺が一段と深くなる。





「・・・・いに・・だよっ。」

「あ?」

思いのほか、彼の威圧的な態度に気圧されたのか声が小さくなってしまった。



「っだから・・・・・俺もサンジみたいにかっこよくなりたかったんだよっ!!」


早口で一気に捲し立てると、唖然としたのか目の前の彼の口から煙草がぽとりと音を立てて床に落ちた。



「もーやだ。サンジの馬鹿」

確かに勝手に借りた自分も悪いけどそこまで怒ることないと思う。
しかも、勢いに任せてなんか恥ずかしいことまで口走ってしまったし。

両手で麦藁を掴み深く被ると彼へと背を向けた。



「これ、ここに置いとくから」


一刻も早く彼のそばから離れたくて、少し乱暴に黒いソレを掴むと近くにあった机へと置く。



「ちょっ、待てコラ!」

駆け出そうとしたところを、急に後ろから強い力で引っ張られてしまいバランスを崩して後方へと倒れ込んだ。

パサリと音を立てて落ちていく麦藁が目の端に写った。

いくら待ってもこない衝撃に視線を後ろへ向けると、サンジの腕の中に抱え込まれるような格好で支えられていた。



「おい。ルフィ」

「・・・・・」


「おい。」


絶対口なんて聞いてやるかと思ったけど、暖かいその手で優しく髪を梳かれると何でも許してしまいそうになるから不思議だ。
低く唸り声を上げ、自分の体の前で組まれているサンジの手をとり、指を引っ張たり抓ったりしてみる。


「サンジが悪いんだからな・・・・」

「はいはい。」


子供じみてるなんてわかってる。
これはただの俺のわがままで、優しいサンジの事だからきっと今回も俺に付き合ってくれてるんだ。


「あーもぉー・・・・・」


己の心のモヤモヤをどうにかしたくて、目の前にあるサンジの右手を人差し指と中指を両手で掴んで裂くように引っ張った。


「いてーよ、コラ」

「痛くしてんだ、悪いか」


それでも飽き足らず、両手で掴んだまま更にサンジの指を前後にぐちゃぐちゃに動かす。


「かっこよくなりたかったんだ?」


今の俺にとって、余りにも直球すぎる言葉が後ろからかかる。


「しかも、俺みたいに?」


声は聞こえないが、恐らく笑いを堪えているのだろう。体に伝わる振動が何よりもその証拠だ。



「・・・・・お前は、そのままで良いよ。」

ふわりと煙草の匂いが香ったかと思うと、何時の間に拾い上げたのか後ろから白い煙が流れてきた。


「十分かっこいいぜ、船長さん?」


今度ばかりは隠しきれなかったのか、クスクスという笑い声が後ろから聞こえる。



「むー・・・・・・今に見てろよな!」

「はいはい。」






絶対サンジなんかにゃ負けないんだ。




いつか絶対負かしてやるんだと、何度目かもわからない誓いを心に深く刻んだ俺であった。








―眼鏡―


20120423



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