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□Sept heures @
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ソレは、その甘ったるい外見とは裏腹に、まるで水でも飲んでいるかの様にサラサラと喉元を通り過ぎ、先程までグルグルと盛大な音を奏でていた腹中へと収まっていった。



ココナッツを真ん中から二つに割り中身を刳り貫き、元となる素材を流し込み型取りされた様なそのグラス。
外の暑さとは対照的に冷え切ったそれは、外敵から身を守るとでも言うのか、全体に透明な汗をかき触れる者の手を僅かに湿らせていた。

乳白色の外見からは想像しにくいが、口に含むと実に様々な風味を舌の上で奏で、飲む者を一瞬にして虜にしてしまうから不思議だ。
まるで、腕一杯の果物を溢れんばかりに口に含み一気に噛み砕いたかのような瑞々しさを残していく。


ブクブクと、その乳白色の液体に刺さったストローからわざと空気を送り込めば、小さな気泡が我先にと白い表面へと湧き上がる。
送り込めば送り込むほど増える気泡は、まるで今の己の心中を表しているかの様だった。



ストローを口に銜えたまま机上で組んでいた両腕へと、横になるように頭を乗せる。
急にグラスから引き抜かれたストローは、今まで浸かっていた白い液体が僅かにこびり付き、何時その細いプラスチックを滑り落ちて、机の上へ白い染みを作り出すかわからなかった。


耳を澄まさずとも聞こえてくる声の方へ、敢えてグラス越しに視線を投げると、ぐにゃりと歪んだ影が三人分映り込んだ。
楽しそうに談笑している彼等とは対照的に、どんどんと暗くなっていく気持ち。


悲しいとも少し違う様なこの気持ちに、正直戸惑いを覚えた。


それは、目の前の女性二人に対してなのか、はたまたその二人の間で鼻の下を伸ばしきっている金色に輝く髪を持つ彼なのか。
ふと頭に過ぎった二つ目の対象に、いやいやそれは有り得ないと頭を左右に振って思い直す。
仲間とかそれ以前に彼というからには、性別は勿論男性だ。
そして言わずもがな自分も男。
別に差別とかはしないが、己の事となると少なからず抵抗を覚えるのもまた事実だ。




ゆっくりと乗っけていた腕から頭を起こし、己の胸元に手を伸ばす。

ゴム人間だからか、ゾロみたいにがっしりとした筋肉が付いているわけでもなく、ましてや女性みたいに二つの膨らみが存在するわけでもない。


余りにも貧弱すぎる胸を、そんな事を思いながら布越しに撫で付けてみた。



ふと、目の前の金髪の髪を持つ彼はどうなのかと疑問が過ぎる。

細身ではあるが、程よく引き締まった肉体に、スラッと伸びる二本の足、気が付けば何時もポケットに仕舞われている指先も、料理人の彼らしく細く繊細で、その手で頭を撫でられると何処か安心してしまう自分が居る。






くるくると上下の歯で器用に挟んだままストローを回す。

白地と赤地が等間隔で視界に入るそれをなんとなく眺めたまま、被っていた麦藁帽子を右手で押さえ、椅子の背もたれへと体を反らせるようにして倒れた。


ゆっくりとそのまま瞳を閉じれば、太陽の光が目蓋を透かし照りつける。
色に例えるとオレンジ色の光が、頭の隅々までじんわりと浸透していき、両腕を重力に任せて身体の側面へと投げ出した。








何処か遠くで鳥の鳴く声が聞こえた気がする。

波の音と、強い塩の香りもした。



今この瞬間も、そしてきっとこれからも、この感覚は変わらないだろう事に嬉しさを覚える。






そして周りに居る仲間たちも変わらないんだ。
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