小説・ショート

□蒼い雨
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この青空は。
どこまでも続いているんだろうか。
臆病で狡い私の。
多分、唯一ほんとに欲しかった人。
あの人のいる所まで、この空はつながってるんだろうか。


夢を見た。
雨が、私の髪をセットしている。
場所は、どこか垢抜けない建物のパーティ会場。 
雨に支度をされながら、私は誰かと向き合っていて。

「おめでとう」

どうやら、祝福されてるらしい。
今日は、私達の結婚式だから。
雨らしい、手作りの式。
花嫁である私は、相手である雨の手でブライダルメイク中。
雨の器用な指が、私の髪を梳く。
どう挨拶を返したら良いのか分からなくて。
振り返れば、そつない言葉を返す雨。

ああ、この人の、お嫁さんになれるんだ。

私は幸せで、ふわふわしている。
あなたが大好きだよって笑顔が浮かぶ。
雨のお嫁さん。
幸せで仕方なくて、暖かくて安全で。
嬉しくて笑っていたら目が覚めた。


しばらくは、余韻で。
現実が入ってこなかった。

……ああ、夢。

頭が心に追い付いたのは、数十秒後で。
ほんとの世界に戻って来たら、胸がちくりと痛んだ。

雨のいない世界が、ほんとの私の世界。

どんなに会いたくても、もう私には。
雨は、会ってくれない。



「…あ」



窓硝子の向こうの蒼(あお)を、ぼうっと眺めていたら。
晴れたままの空から、雨が降りだした。

それは、蒼い雨。
輝く空を映しながら、落ちてくる雫。




      2009.12.17
 

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