小説・ショート

□水の中
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今日もジトジトしている。 
空はグレー。 
眩(まぶ)しい位の銀色。
銀色の粒が、空気中に飛び散っている。
たっぷりと水分を含んだ大気。
7月の初旬。

「……ジトジトしてるねぇ。ナンカ、黴(かび)生えそう」
私はつぶやいた。
「そうか?」
答える彼は、視線は本に当てたままで。
私たちは彼の部屋に居た。
青い畳が清々(すがすが)しい、彼の部屋。
彼のウチは純和風で、ほとんどの部屋が畳。
最近畳替えしたらしくって、どの部屋も清々しい匂い。

「…ねー、何読んでるの?」ちっとも構ってくれない彼に、私は少しご機嫌斜め。床に胡坐(あぐら)をかいて、レンは読書中。
「ねーってば!」
彼の顔と本の間に、私は頭を突っ込んだ。

「……」
「……」

すると、流れる沈黙。

「…オマエはガキかよ?」
呆れて眉を寄せるレン。
あ、その表情、大好き。
「もうちょっとで終わっから待ってろ。そしたら構ってやるよ」
なーんだ、分かってるんじゃない。
私が拗(す)ねてるってコト。
「…それにしても難しそーな本だね?コンナノ読んで頭痛くならない?」
首をひねって、本を見る。
「別に頭ナンカ痛くならねーよ…ってか、重いって…」
わざと頭をのせてみたら、彼は本を引き抜いた。
「わっ」

ぽすん。

私は、レンの太股に落下。
「……」
彼の足の上で、本の表紙&背表紙をじいっと眺める。

………キレイな指だなぁ…。

本を持つレンの指に、つい惹き付けられる。

…あの指が……。

「きゃっっ」

あ。叫んじゃった。

「………」

本をどけて、私を覗き込む彼。

「何が『きゃっっ』なんだ?」
「……えっとぉ……」

言えませんって。

「………そのー……」
口籠もる私。
知らず目が泳ぐ。

すると。

レンがパタンと本を閉じた。

「言えねぇコト?」
「えっ、別にそーゆーワケ…」
なんだけど。
「…当ててやろうか」
彼はニヤリと笑った。

「へ?」
…と、思う間にするっと体を引き上げられて。
気付くと私は、彼の上に座らされていた。

「……」
目の前にあるレンの瞳。
彼の目が、ちょっと意地悪に輝いた。

「…オマエ、やーらしー」
「ええっ!!なんで分かっちゃったの?!」
「へぇ。やっぱ、やらしーコト考えてたんだ」
「……あ…」

私は、ぷくっと頬を膨らませた。

…もう、レンったらすぐ引っ掛けるんだから!!

「オマエって、ホントおもしれー」
ククッ、て感じに彼は笑う。
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