虚偽と嘲笑

□檻の中 私は奴隷
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『貴方のせいなんです』


そう彼は言った。背筋が凍りつくほどの美貌を残酷に歪めながら笑う彼は確かにそう言っていた。私が彼の元を離れたのがいけなかったのだと、私が彼に応えなかったからいけなかったのだと、私が彼を愛さなかったからいけなかったのだと、私が、私が、私、が、


『ですから、』


息をするのも忘れてしまいそうな極冷笑を浮かべる彼の瞳は紫水晶のような神秘的な色をしていた。その瞳の中には陽炎のような淡く揺らめくナニかがあって。それを見ていると何だか彼の言っている事がすべて真実のように聴こえてくる。そう、すべて私が悪いのだと、そう考えるようになってしまう。なんの根拠もないのに、真実である筈がないのに、なのに酷く納得させられてしまうのだ。


『さあ』


差し出された手は真っ赤なペンキに突っ込んだかのように染まりきっていて。不思議とその手を見ても何も感じない。この手が直接惨劇を引き起こしたというのに、床に沈む見知った人たちを血塗れにし、皮膚はおろか骨や内臓までもまるでミキサーにかけたかのような原形を留めない肉塊に変えたというのに。


『契約を』


ダメだ

この手をとってはイケナイ

今よりもっと酷い事になる

そう本能が最大に警告している。でもとらないと目の前にいる冷酷無慈悲な悪魔がどんな行動にでるかわからない。それこそ次は自分の番だ、どんな酷い事をされるか想像すらつかない。怖い、純粋に怖い。どうすればいい、私はどの道を選べばいいんだ。


『安心なさい』


それは囁く。甘く優しく誘惑するように。


『貴方が怖がる事など何一つありません』


まるで天使のような優美で包み込むような笑みを浮かべた彼は穏やかな声色で尚も続ける。


『この手をとればどのような苦しみからも解放されます』
『どのような、苦しみからも?』
『ええ』
『もう誰も、苦しまない?』
『勿論』


ゆっくり私の方へと一歩近付く彼から言い様のない恐怖を感じる。まるで鋭いナイフの切っ先を喉元に突き付けられているかのような。


『そういう契約ですから』


思えばすべて計画の内だったのだと思う、私が彼からの“契約”を拒めないようにする為の。だが私には選ぶしか道はない、今、この時、この血塗れの手をとるしか。














すべてはこの時始まった

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