トリカゴッド

□五
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白…。


ふわりと目の前を横切ったそれが着地するのを見届けて空を見上げた。灰色の雲から白がちらちらと舞い落ちていた。


「雪だ!」


悟空から嬉しそうな声があがる。
目を凝らせば行く道の先に薄っすら雪が積もりだしているのが見えた。


「村の人も降ってるって言ってましたからね。悟空、はしゃぐのはまだ早いですよ」


不思議そうにふり向いたハクと悟空。八戒は早くも荷物からフード付きの外套を取りだしながら、努めてにこやかな笑顔で言い放った。

「これから雪山登山です」










第五章 










「おッすげえ!!ここ雪深えーー!ハクー!」

「え、何ごく、」


腿まで埋めてしまうほど雪の積もる場所から駆け戻ってきた悟空がハクの腕を掴む。そうして華奢な身体を軽々担ぎあげたかと思うと、驚いたことに思い切り放り投げた。
ハクが飛ばされた先で雪の飛沫が派手に飛ぶ。


「何やってんだあいつら」

「埋もれちゃいましたよ。悟空は熱量が高いですねぇ」

「猿は喜び庭かけ廻るってな」


雪の中から無様に突き出した足を見て、悟浄は口の端を持ち上げた。





「――ぷ、はっ…」


し、死ぬかと思った。
雪がクッションの様に受け止めてくれたおかげで痛みはなかったものの、宙を舞った事でバクバクと騒いでいる心臓を押さえる。
ただでさえ寒いのに何をしてくれる。
雪から這い出たハクに悟空が犬のように駆け寄ってきた。当然だが突然放り投げたことに対する謝罪のためではない。輝く目が面白いだろ?と訴えかけてくる。
無言でその腕をとると、やられたのと同じように引いた腕の下に身体を潜り込ませて担ぎ上げようとするが、


「?」


ビクともしない…!


「くそっ!」
「っどわ!?」


持ち上げるのは諦め背負い投げよろしく頭から雪に突っ込んだ。


「ぶ、はっ」


雪にまみれた顔が二つ覗き、互いに顔を見合わせる。


「何すんだよ!」
「それはこっちの台詞だ!」


雪玉とも言えないとりあえず雪を掴んだだけの物体を投げつけ合う。喧嘩というよりはじゃれあい。悟浄などにはその度に動物コンビだの何だのと揶揄される二人だ。


「ウロチョロすんじゃねえよ」
「ぶっっ」


ボフ、と再び悟空が顔面から雪に突っ込んだ。後ろにはいつの間にか三蔵の姿がある。悟空の背中に蹴りを入れたのであろう三蔵を見て、ハクは今まさに雪を投げつけようとしていた腕を下げた。下げたのだが、既に空中に放っていた出来そこないの雪玉が3発ほど三蔵の顔面を直撃した。
ベショッと狙い澄ましたかのようにド真ん中へ命中し、ぶつけた張本人であるハクが真っ青になる。
銃口が自分に向くのを見届ける前に慌てて逃げ込んだのは八戒の後ろだ。


「った、助けて八戒! 」


ハクの経験から言えばここが一番の安全地帯だった。以前悟浄の後ろへ隠れた時は躊躇なく銃をぶっ放された。あそこは危険だ。


「三蔵が急に入ってくるからだろ!」
「つべこべ言わず出てきやがれ!」


まぁまぁ三蔵…、と八戒が宥めるがもちろんそれで収まるはずもない。どこに居ようと変わらず賑やかな一行である。


この時点で、すでに十分すぎるほど吹雪いていたのだが、ほどなくして雪はさらに勢いを増し、風にのって吹きつけては痛いほどに頬を打つ。その頃には、もはや最初に雪で喜べたことが遠い昔に思えるほどに、視界の全てが雪で覆われていた。
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