トリカゴッド

□弍
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よく晴れた空の下、三蔵一行は今日も砂煙を巻上げながら西へと向かっていた。


ジープの上で流れ去ってゆく景色を見送っていたハクは、ふと名前を呼ばれて進行方向へ向き直った。



「退屈じゃないですか?」

「ううん、全然」



ハンドルを握る八戒の声に、ハクは心持ち声を張って答える。後ろでは悟浄と悟空がトランプゲームに興じていた。

ルールを説明されてもさっぱり理解できなかったため、実践あるのみとババぬきに引き込まれたハクだったが、思いがけず一番先にあがってしまい、今は悟浄と悟空が最後の接戦を繰り広げているところである。

両側でケンカでも始められてはかなわないと早々に逃げ出したハクは、後部座席の端で片膝を抱えて座っていた。



「へぇ物好き。俺なんかこの旅始めたばっかの頃は退屈で死にそうだったけどな」

「ふーん、俺は結構楽しかったけど」

「そりゃ綺麗なねーちゃんの一人や二人一緒とくりゃ話は別だけどよ」


伸ばした悟浄の手が、右へ左へカードの上をさ迷う。


「毎日毎日野郎の顔ばっかみてて楽しいわけねーだ…ろ、っと」

「あぁっ悟浄何でそっち取んだよ!!」

「バーカ、顔に出すぎだっつの」


どうやら決着がついたらしい。集めたカードを繰りながら、本気で悔しがる悟空を悟浄がせせら笑う。

今日で旅を初めて三度目の朝だった。

初めの頃こそ戸惑いばかりを浮かべていたハクだったが、ようやく一行のペースにも慣れ始め、突飛な行動に驚かされる回数も減ってきた。

八戒は優しいし、悟空や悟浄ともじゃれあっている内に大分打ち解けてきたように思う。三蔵だけは相も変わらず目が合ってもにこりともしないが、悟浄からあの無愛想は生まれつきだと聞いて以来、あまり気にしないことにしている。



「いいかげんトランプも飽きてきたな。今度は何するよ」

「もう一回ババぬきしようぜ!次はぜってー勝つ!!」


いきり立つ悟空を横目に、ハクは袖から覗く自分の腕に視線を落とした。

浮かび上がっていた打身の跡や小さな切り傷なんかは消え、すっかり元通りになっていた。
軋むような骨の痛みも、今はもう感じない。

ずっと治療してくれていた八戒も回復力に驚いていた。悟浄や悟空並ですよ、と。それって普通ってことじゃないのか?とハクが訊くと、「いやぁ、アハハ」とだけ返ってきた。

そうか。あの二人は普通じゃないのか。ハクはその時漠然と理解した。

顔を上げると、隣では次は何をするか論争が始まりかけている。


「いつもこんな感じ?」


今は目新しい物ばかりだから退屈なんて感じないけれど、毎日これの繰り返しだとすれば自分よりも四人の方がよほど退屈しているんじゃないだろうか。

車上で日がな一日座っているだけというのに耐えられないのか、悟浄はよく不満を口にするし、それが元になって悟空と騒ぐこともしょっちゅうだ。そして三蔵に怒られて一旦は静かになるが、一時間と持たずにまた同じようなことを繰り返す。


「そうですねぇ、いつもなら毎日のように賑やかな方たちが押しかけてくるんですけど」

「そういやここのところはご無沙汰だな」


もしかしてまだうるさいのが居るってことだろうかと、首を捻る。
今でも十分すぎるくらいうるさいのに、それより上となるともう想像もつかない。遭遇したその時、果たして自分の耳は無事だろうかと、ハクはそう遠くはなさそうな未来に想いを馳せる。



「そういや何で西なんだ?」


思い出したように尋ねる声に、ハクはトランプを指先で弄んでいた悟浄を振り向いた。


「お前生まれた村もどこにあるかわかんねぇって言ってなかったっけ」

「あぁ」とハクはため息にも似た相づちを打つ。

自分が西へと望んだ理由。

捕まって、気付いた時にはあの屋敷にいた。だから村の場所も、その村がまだあるのかも分からない。自由を手に入れたものの、これからどうすればいいかまったく分からなくて途方に暮れた、そんな時に思い立った。
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