トリカゴッド
□壱
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誰かが言った
“世界はとても狭いのだ” と
分厚いカーテンの裏側で、雨の音がしている。
床まで届く長いカーテンの裾から僅かに差し込む光もない今日、それでなくとも薄暗い部屋の中は夜中とさほど変わらない。
部屋の中央には洒落た一つ足のテーブルと、その上に古びた金の燭台があるはずだが、それも今はぼんやりと濃い影が認識できる程度だった。
部屋の隅に置かれた鳥籠の中、
しきりに窓を叩く雨の音に耳を傾けながら、彼は抱えた膝に顎をのせた。
テーブルの隣に鎮座ましましている大きな椅子の主は、このところずっとここを訪れていない。そういえばいつもその隣に付き従っている彼女とも数日顔を合わせていなかった。
訪れる者がいないということは、それと同じだけ明かりには触れていないということだ。太陽を一切遮断されたこの部屋は肌寒い。
たまに忘れられる食事と紐のような細い陽の光。それに時折聞こえる雨と風の音だけが狭い鳥籠の中にある彼の世界だ。
ふと、雨の音に混じって靴音が鳴っていることに気がついた。
カツカツと床を叩くヒールの音は彼女のもの。
じっと耳を澄ましていると靴音は次第に大きくなり、やがて部屋の前まで来て止まった。
ギギ…としゃがれた呻き声のような音をたてて扉が開く。
闇で塗りつぶされた部屋に、細く廊下の灯りがさし込んだ。
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