トリカゴッド

□壱
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「くっそ、急に降って来やがって。おまけに煙草屋は街外れにしかねーっつうしよ。冷てーったらねえぜ。八戒、ちょっと手伝ってくれ」

億劫そうに肩で扉を押しのけた悟浄は、迎えに出た八戒に一抱えもある何かを渡した。


「…これ…」
「なんだそれは」
「拾った」


三蔵の質問に、まるで道端の石ころでも拾ってきたみたいな調子の答えが返ってくる。

「なになに?」

食いもんだったらいいな、そんなちょっとした期待に胸を躍らせつつ悟空は八戒の前に回り込んだが、


「え…人間じゃん」


そこにあったのは、悟浄と同じように濡れそぼった髪から滴を落とす少年の姿だった。

かけられた悟浄のジャケットの下からだらりと垂れた手足はか細く、青ざめた顔でぐったりと動かない。
冷えているのか、薄く開いた唇は微かに震えていた。


「拾いものはするなと、そう言わなかったか?」
「逆効果ですよ、三蔵」
「そうそう。ダメっつわれるとやりたくなるんだよな、余計」
「ガキか貴様は。今すぐ捨ててこい」
「まぁそう言うなって。事態は一刻を争うのよ。八戒、とりあえずそいつ頼むわ。着替えてくる」
「あ、はい」


一刻を争う割に、耳に届くのは随分とのんびりした口調だ。
これまたずぶ濡れの袋を机に放って、悟浄は部屋を出て行こうとする。
それを三蔵が黙って見送る訳もなく、


「聞こえなかったか?俺は捨ててこいと言ったんだが」
「あー、残念。今日はちょっと耳が遠いのかもな」
「なら今すぐよく聞こえるようにしてやろうか」

懐から出てきた小銃が、悟浄の頭に向けられた。
なんだか、今日の三蔵はいつもの三割増しで機嫌が悪い。


「大目に見ろって。誰かさんが俺一人に行かせなきゃこんな拾いもんもしなかったんだぜ?」

言いながら、今度こそ悟浄の背中は廊下に消えた。

机に落ちたビニールからは、いつも三蔵が持ち歩いている煙草の箱が覗いている。

一つ舌打ちをして銃を引くと、三蔵はしかめっ面のまま新聞に目を戻した。


とりあえず今すぐに放り出される心配の無くなった少年を、隣の部屋に寝かせてきますと八戒が抱え直した時、視界にちらついた白に悟空は首を傾げた。


「ちょっと待って八戒」


出て行こうとする八戒を引き止め、身体を折ってその背中を覗き込む。
それは、普通の人間には絶対にあるはずのないもの。


「なぁ、これって…!」


答えを求めて悟空は八戒を見上げた。
だって、これではまるで…。

腕を持ち上げて八戒が下を覗きこむ。ちらりとこちらに視線を寄越した三蔵は、またあからさまな舌打ちをして顔を背けた。


泥で汚れてしまってはいるが、もとは白かったのだろうと容易に想像がつく。

触れようと思わず手を伸ばすが、拒むように少年は身を捩る。

手を引っ込めた悟空の視線の先。
そこには、玩具みたいに小さな羽がくっついていた。





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