(雪男/青祓)




何層か重なっていたはずの皮膚が数枚剥けて、擦れた足の甲は赤く血の色が透けて見えた。見れば踵のほうも同じようにぐじゅぐじゅと肌がスクランブルしていて、見ているだけで痛ましいザマだ。――見るも無惨な靴擦れ。空気に触れただけでもヒリヒリと痛む。
これでは今は脱いでいる靴下をもう一度履くのも気が進まない。きっと痛いし、血がついてしまうだろう。
些細ながら切実な私の葛藤など知らない小鳥が愛らしくさえずりながらはるか頭上を通りすぎていく。学園のベンチに座ったまま、私は膝に顎を乗せた。庭を挟んだ向こう側には灰色の不気味な寮がある。蔦が蔓延り、人気はない。

と、そちらの方から誰かが歩いてきた。遠目からでもわかる。体格と歩き方、ぼんやり見える制服は男子生徒のものだろう。
さっと下を向いて、靴擦れを確認する作業に戻る。こうしているうちにさっさと通りすぎてくれれば良い、というものであって、決してあの男子生徒の助けを欲しているサインでは、


「大丈夫ですか?」


ない。


「え、」
「ずっと動けないようでしたのでもしかしたらと思って。靴擦れ、ですか?」
「えっと、はい」
「少し失礼します。」

予想を裏切って話しかけてきた彼はそう言うなり、騎士のように私に跪いた。私の足をそっと掴む。
っていうかこの人――入学式で演説してた、

「っひゃ!」

思考はもぞ痒い刺激で中断された。
彼が指を這わせて検診している。
足を他人に触られるというのはくすぐったい。他意はないことはわかっているのだがどうも恥ずかしい。
真面目な顔つきで検診する彼に、少し心臓が跳ねた。


「ほ、保険委員かなにかやってるの?」
「いえ、医学を少しかじったくらいです。
そこの男子寮が僕の寮です。そこでなら応急措置くらいはできますが……立てますか?」
「ううん、そこまでしてもらうほどのケガじゃないよ。靴擦れだし」
「分かりました、救急箱を取りに行ってきますのでここで待っていて下さい」
「え、そっちの方が申し訳ない!わかった、一緒に行くから!行こう!」

では、と差し出された手のひら。まさか手を取れということだろうか。

「も、申し訳ない」
「いえいえ」


勝手がわからずそうっと手を乗せると彼は包むように指を折る。知的な眼鏡の奥で、穏やかな瞳が微笑んだ。
くたびれた一対の靴下をもう片手に掴み立ち上がる。地に転げていたローファーは彼に回収されている。
さしずめそれは、ガラスのくつのように思えた。







(裸足シンデレラ)

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