短話

□救われたんだ
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「これ、このブロマイド10枚下さい!」

積み重なる折紙サイクロンのカードを指さして店員のおばちゃんに注文する。と、隣にいた内気そうな青年が思いきり吹き出した。

「…なんですか、失礼ですね」

おばちゃんから商品を受け取ってから、じろりと青年をにらむ。日本人は人見知りだと聞くけれど、見ず知らずの人にこんな台詞が言えるようになるなんて、英語圏のこの町に来てからだいぶメンタルが強化されたみたいだ。
むしろ慌てて両腕を振っている青年(見たところロシア系か)の方が弱気に見える。っていうか見たまんま人見知りで弱気だ。

「いや、あの、そうじゃなくて…」

「じゃあなんなんですか」

さらに声をきつめると、青年は慌てて私の顔と街並みを交互に見ながら、もごもごと呟いた。

「どうして…折紙サイクロンなのかな、って思ったから…」

「いいじゃないですか、折紙サイクロン。和風なところとかちゃっかり見切れて宣伝してる、あの不思議な存在感とか、ごってごてな侍喋りとか。そりゃあ他のヒーローたちに比べたら英雄っぽさは足りないかもしれないけど…そこがまた良いんです」

友人に向かって幾度となく喋ったこの台詞。その都度失笑が返ってきたけれど、この青年はというと一切の動きが止まっただけだ。私の言った言葉を理解しようとしているのか、コンピューターで言う読み込み中か。
がさりと袋を探って、今買ったブロマイドを稼働停止中の青年に向かって一枚突き出す。するとぱちくり、とまばたきした。私よりずっと背が高いのに、まるで小鳥みたいだ。

「え…?」

「あげます。これ見たら折紙サイクロンの魅力に気づくかもしれないし」

おそるおそるそれを取った青年はカードを見つめて、ぱくぱく、と何かを言った。


「…本当に、好きなの?」


私の主張が信じられないらしい。その問いには胸を張って答えられる。何度も、何度でも。


「もちろん。大好きですよ」

青年の目がいっぱいに開かれて瞳の中がキラキラと輝いた。さっきまでの内気が嘘みたいに、積極的にぎゅっと手を包まれて猛烈な握手をされる。


「あ、ありがとう!」

「うん?ど、どういたしまして……」









救われたヒーロー





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