短話
□没夢クリスマス
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聖なる夜。もとい、性夜。
窓の外は冷たい風が吹きさび、それに負けぬ程の熱を持ったカップルが街灯のもとイッチャイチャイッチャイチャするこの日。ぐつぐつ煮える鍋を前に仁王立ち、何事だとあぐらをかいているユーリを見下ろし、重々しく口を開いた。
「いいですか、クリスマスなんて幻想です。
企業の金儲け用トラップです。今頃は暖かな部屋の中、イチャイチャキャッキャしている男女がいることでしょう。しかしそれは商業の罠。すべてはまやかしなのです。騙されてはいけません、性欲物欲に支配されることなく、この聖夜を粛々と、淡々と過ごさなければならないのです。」
「じゃあ今部屋に二人っきりのオレとお前はなんなんですかセンナさーん」
「ラピードいるじゃん。」
「…ラピードいねーぞ。」
「えっ…うそ、じゃあ、ラピードも今頃リアル充実しちゃってる系!?うっそおおおお!!」
「ちっと落ち着け」
「…すまない、私としたことが」
「で、男女二人っきりのオレらは裏切り者じゃねーの?」
「違うでしょ、そもそも恋人同士じゃないしさ。」
そう言うと、ユーリははああああっと大きなため息を吐いたあとにまじかよと呟いた。大丈夫か。
「っていうか凛々の明星のみんなで鍋パーティーなのに誰も来ないって…。ユーリが招集かけてくれたんだよね?」
「ああ。」
「おかしいなー…連絡も無しにキャンセルするような人達じゃないハズなんだけど…。ユーリ、ちゃんと伝達した?」
「ま、あいつらも忙しいんだろいろいろと。先食っちまおうぜ、鍋が焦げる。」
「そういえば、もともと取り皿が二人分しか用意されてなかったよね。」
「並べてる途中にお前が来たんだよ。」
「そうなんだ。…ケーキ、大人数用に大きいの持ってきたんだけどな。」
少し残念、と肩を落とすとユーリは箸をくわえてじっとこちらを見据える。なんだ、私の顔になにかついてるのか。
「ケーキならオレが食ってやるよ。それと、髪になんかついてっぞ」
「お、どこどこ?」
「掻き回すなって、取ってやるから目ぇ閉じろ」
「へ?うん」
ユーリの白くて細長い手が伸びてきたところで目を閉じた。てのひらがそっと髪を撫で、そのまま後頭部に滑っていく。そのまましばらく、てのひらは私の後頭部をおさえるみたいにしてゴミを取る動作をする気配がない。ユーリが動く気配がない。
…あれ、というか目閉じる必要ないんじゃ、
「青年ー!メリークリスマスッ!!」
「なっ」
「わあ!?」
当然豪快にドアの開く音と張り上げられた声にびっくりして瞼を開けると、目の前に白い肌と、黒の瞳と長い髪。ユーリの厭味なほど綺麗な顔が、目と鼻のさき、だった。
「近っ!!」
反射的にチョップが繰り出すほどの近距離。さしものユーリも避けられずに、短いうめきと共に退いた。そこに不意打ちの正体がにやにやにやにやと、にやにやを絶やさないまま部屋に入ってきた。
「おんや〜、もしかしておっさんたち、邪魔者だったかしら。」
続いて背後からジュディス、カロル、パティ、リタとぞろぞろ連れだって部屋に。みんなが座るスペースがあるだろうか。
「ユーリはなんで床で悶えてるの?」
「何があったのじゃ」
「じゃま…なんでよ?それよりみんな、遅かったじゃない。先に食べ始めるところだったよ。」
「あら、私たちはお呼ばれしてないわ。」
「っへ?」
「あたしらはそこのおっさんに呼ばれて着いてきただけよ。『どうせ予定がないならみんなで青年の家に突撃しよう』ってね。」
「あれ?ほんと?あれ?」
「でもあんただけ家にいなかった。そしたらユーリと一緒じゃない。」
あんたら何してたのよ?と腕を組むリタ。つじつまが合わない、彼らと話がかみ合わない事ばかりだ。どういう事かユーリに聞こうと振り返ったけれど、床に伏したまま動く気配がない…。ただの屍のようだ。
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