短話

□縁とは奇妙なものでして
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こいつ、やばい。
一瞬のうちにそう感じた。野性の本能といえる直感がピッと受信した危険。人ゴミの、濁流のようにうねる池袋の、横断歩道の真ん中。
ちらりと目が合って、そして『彼』は一瞬で人ゴミに呑まれていった。それだけだと言うのに。
その一瞬で彼は笑ってみせた。
真っすぐに私を見、私と視線を合わせ、私に向かって笑った。

人に話せば自意識過剰だと思われるに違いない、でも根拠の無い絶対たる確信があった。今の人は、私を見ていた。
凍てついた赤い瞳だった。端正な顔に浮かべた絶対零度の笑いだった。何にも染まらない闇色の髪だった。恐ろしいとすら感るほどの。

ああでも、これから関わる事もないのだろう。こんな無数の人に呑まれた中では二度会うこともない。砂漠の砂の一粒をさがすようなもの。確率は無に等しい。
そんなことを考えながらじっと人ゴミを見つめていると、見慣れた金髪がひょっこりと視界に現れた。

「おーい?大丈夫か、人ゴミに酔った?」

「あ…ううん、予想以上で圧倒されてたの。池袋って本当に人多いんだねえ」

「だろだろー?このヒューマンウェーブの中ではぐれないように」

「なにそれ、人波って言いたかったの?」

そのとーり、さすが俺のお姫様だ。とウィンクしてさりげなく私の手を掴み、彼は歩き出した。おそらくは、多すぎる人の中ではぐれないように。彼の優しい気遣いがほほえましくて、笑みが漏れた。

「ありがと、正臣。
続き聞かせてよ、この町で逆らっちゃいけない人の事」










(縁とは奇妙なものでして、
どこかで繋がっているのです)


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