Long RE!

□0.まぬけなはじまり
1ページ/2ページ





始まりはなんてことない。
ただ引っ越しのためにクローゼットを整理していただけだった。
埃っぽいクローゼット。いくつも積まれた段ボール。かび臭い洋服、遠い昔に買った古びたおもちゃ。要るものと要らないものを分けていく単純ながらも感慨深い作業。

その途中でクローゼットの隅で何かがきらり、光った気がした。

「……?」

手を伸ばしてつまんでみる。小さくて固くて、冷たい感触。
窓から差す光の元に晒してみればそれは。

「わあ……綺麗」


お母さんのものだろうか。
快晴の日に一粒だけ落ちて来てしまった雨粒みたいに煌めいていて、透明で。クローゼットの隅っこなんていう辺鄙なところにあったのに、埃を被っていない。


ダイヤモンドだろうか。見惚れる程きらびやかな宝石が嵌まった――指輪。
それが、手の平で輝いていた。
宝石は大きすぎる事も小さいすぎる事もなく銀色のリングの部分は控え目に彫刻してある。
シンプルだがそれゆえに素材の良さが目立つ高そうな指輪。
…売ったらいくらするんだろう、なんて不謹慎な事を考えながら、いろんな角度に変えて見ると、リングの内側に何か彫ってあるのに気付く。

「えと……?うん?」

彫ってあったのは年号に日付に、誰かの名前らしい。
らしい、というのは彫ってある文字が英語で、さらに、ミミズがのたうったような筆記体であったためだ。


「フロム、ジョエット…フォウ、……?」

オールローマ字読み。
読み方が間違っている気がしないでもないがまあ気にしないでおく。
どうもジョエットさんという男の人が誰かに贈ったものらしい。
女性から男性に、というのは考えにくいし、男性が男性に指輪を贈るなんて気持ち悪いから、相手はきっと女性だ。
女性の名前は、あいにく読み取れなかった。



_
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ