中話

□無知ゆえの幸不幸
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今日はなにやら、さやかもまどかも暗く沈んでいて話し掛け辛かった。なんだか馴れ馴れしく絡める雰囲気でもなかったので、今日は珍しく一人で帰る。仁美は例の如く塾があるらしく、さっさと帰ってしまった。
一人で帰るのは久しぶりだ。大人数に囲まれるのが好きなわけじゃないけれど、一人ぼっちは勘弁だ。つまらないなあ、寂しいなあと内心一人ごちながら校門を出るなりiPodを取り出す。
ふ、と前を見遣るとキリキリ歩く黒髪ロングを見つけた。見覚えのあるその後ろ姿。何も考えずに口を開いて、息を吸う。

「ほむらちゃーん!!」

ぴたり。彼女は優雅に片手で髪を持ち上げながら振り返ってくれた。





******




「でね、さやかもまどかもなんか落ち込んでるっぽいんだけど、聞ける雰囲気じゃなくってさ」

「…そう」

「だから今度、パーッと景気づけにケーキでも食べに誘ってみようかなって思うんだ。どうかな?」

笑いながら歩く私に対して、ほむらちゃんは相変わらずのポーカーフェイス。でも、相槌をちゃんと返してくれているし、むしろ余計な事を言わないから話しやすい。
ぴたり。私が呼び止めた時のように、ほむらちゃんが足を止めた。連られて私の足も止まる。


「あなたは」

「なあに?あ、名前でいいよ」

「あなたは、これ以上関わるべきではない」

「……へ?」

「これは、私たちの問題だから」
関わるべきではない、って、何と?さやかとまどかのこと?“私たちの問題”ってなに?どういうことだろう、そんな話をする脈絡でもなかったし、ほむらちゃんがなにを言いたいのか全然わからない。

「ほむらちゃんは何か知ってるの?」

「…知ってるわ。美樹さやかと鹿目まどかの落胆の原因も、すべて」

「なら、」

教えてよ、と言いかけた口は制するように伸ばされた手によって中断される。ほむらちゃんは、感情が読めない深い色をした瞳を私に向けて言葉を紡いだ。

「知らない方がいい。知ればあなたは後悔する。きっと…いえ、必ず」

僅かに、瞳に悲哀の色が混じる。
まるで、私が酷く後悔するそのさまを見たことがあるみたいだった。だから言葉に重みがあって、私は二の句をつげなくなる。そのうちにほむらちゃんはまた優雅に髪を揺らして歩いて行ってしまった。私の心にたくさんの不安と猜疑心と、私だけが知らない事があるという強烈な疎外感を残して。


(…一体、なにがあるの)








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