中話

□“やっちまった”
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歩道を歩く二つの足音。すらりとした女性の後ろを歩く部下の男性が口を開いた。

「なんていうか、不思議な子でしたね、あの子」

対する女性の返事は気の無いものだった。

「そーね。説明会制服で来てたし」

「応対しっかり!笑顔ばっちり!いやー妹がいるならあんな子がいいッス」

「なにアンタ、あーいうのがタイプなわけ?ロリコン?」

「そ、そういうわけじゃ…あ、タイプといえば背の高い方の人!ものっすごい美人でしたねー」

途端、鼻の下を伸ばしきった部下の鳩尾に、上司の鋭い蹴りが入る。たまらず腰を折った部下の襟を掴み引き寄せた。


「あーんーなーの、化粧でだまくらしてんに決まってるでしょ!?あんなもんはアンタ、化粧とかはたいしたことないっつーの!だってアレ付けまつ毛でしょ!?」

何か思うところがあるのだろうか、普段の商売スタイルとは掛け離れた形相でまくし立てていく。

「でっ、でも、スタイルとかもすごく良かったです、よ…?」


「すみません」

「あーんなもんは!ただのガリガリだろうが!クソボケ!つか無いから!あの細さであの乳は脂肪の割合上絶対無いから!」

「すみません」

「無い無い無い無い無い」

「すみません」

「絶対シリコン!絶対ヒアルロン酸注入!!」

「ストップ翔子さん、後ろ後ろ後ろ!!」

「あ"あ"ん"っ!?」

部下に指摘され、鬼の形相のまま振り返る。瞬間、彼女は部下の襟を掴んだまま石像のように固まった。何故ならそこには、


「眼鏡。忘れていきましたよ」

先程まで話題に上がっていた、取引先に住む一人の少女がいたからだった。



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