中話

□inカフェ
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天水館住人たちには無縁だと思われていたそのお洒落な服装はお洒落な彼女いわく、地上げ反対に向けてお洒落さんが仕立てた“勝負服”らしい。
これから地上げに反抗するのにジャージやら部屋着ではカッコつかないしダサいからゼッタイダメだ、とお洒落さんに人差し指を立てて教えられた。
そして今。


「わああっ……!」


左隣に座る、ブランド物の服に身を包んだ月海達がテーブル一面に並べられた料理を見て感激めいた声を上げた。
テーブルには生ハム苺パフェティラミスジンジャーティー、その他もろもろがところ狭しとひしめいている。オレンジがかった照明が照らす店内は、普段の天水館メンバーだったら絶対に入らない、洒落た洋装のカフェだ。
そしてそんな奥手な彼女たちをここまで引っ張ってきたのは、


「さーじゃんじゃん食べちゃってー!」

愉しそうに笑うお洒落な彼女だ。
その景気の良いセリフを合図に、まややを始めとする一行が一斉に料理へがっつき始める。見ていると、お洒落さんがそれに気付いた。

「食べないの?」

「…いただきます」

お洒落さんにせっつかれて、1番近くにあったグラスに手を伸ばした。自分の袖には、校章の彫られた釦がついている。
月海に泣き縋られたあと、着替えようとしたらお洒落さんに「それ脱いだら駄目!そのまま!」と迫られたのは記憶に新しい。そのために、自分ひとりが制服のまま。
サイダーだろうか、炭酸のそれを一口含んでからぼんやり思い出す。


(…そういえば、晩ご飯を食べてなかった。)



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