TALES!

□いつまで見上げれていれば?
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「…もういい」

めったに崩さないポーカーフェイスに眉寄せて、ついでに私の脇にいたラピードを引き寄せてユーリは私に背中を向けた。私の目に映るのは真っ黒な背中と艶やかな黒髪。つまり黒オンリー。ねえ、ちょっとどうしたの。聞いても背中は何も答えない。

「…ユーリ、」

何をしてしまったんだ。ここまで不機嫌をあらわにするユーリなんてなかなか見れない。…いや、2、3日前もこんなことあったな。ええと。たしかあの時もフレンの話をしていて、こんな風になったんだ。そうだ!こんな時、どうしたらいいのかジュディスに聞いたばっかりだ。えーと、ジュディスはなんて言ってたっけ。あ!

「ユーリ!」

相変わらず無言の背中に声をかけ、私とユーリの間にあるテーブルに思いきり身を乗り出す。

視界にあるのは黒だけ。そうして、背後からぐいいっと手を伸ばす。射程距離に入ったところで、素早くユーリの首に腕を絡めて抱き着いた。耳元に唇を寄せて。

「拗ねちゃいやだよ、ユーリ!」


肩にあごを乗っけて、笑いながらそう言うと、びっくりしたのか大袈裟なぐらい身体を揺らした。どんだけ驚いてるんだ。さらにユーリに体重をかけて覗き込む。唇がユーリの頬に触れそうだ。

「ぷっ……くくく!」

改めて見た、目を見開いてただ遠くを凝視していたまぬけみたいなユーリがおかしくて笑いが溢れ出る。耳元でうるさいだろうに、相変わらずのポカン顔。それがますます可笑しくて、大爆笑していたらさすがに騒がしいのかユーリが身じろぎした。しっかり首に抱き着いていたので落ちはしない。上半身はべったり背中にもたれていたし、かわりに爆笑で揺れる私を支えるテーブルがぎしぎしと軋んだ。


「はーっ、おっかし!」

ジュディスの言うとおりだったなー、なんて考えているとラピードがするりとユーリの腕から逃れて、半開きの扉の向こうへ消えていった。私、そんなにうるさかったかな。

「おーいラピー、どぅわ!?」

がっしと腕が掴まれて、かと思うと自身の身体が前のめりになる。自分の意思とは関係なく、だ。足がテーブルから離れ、宙に浮き、ぐるりと前転して、気がついたら背中を強く床に打ち付けていた。この間わずか1、5秒。さらにユーリに背負い投げされたのだ、とわかるのにたっぷり3秒かかった。計4、5秒。
何が起きたか理解して瞳をぱちぱちしていると、視界に逆さまのユーリが現れた。先程までの仏頂面でなく、どこか呆れたようなよく見る表情。あぐらをかいたその上に肘をついてこちらを見下ろすユーリと、床にのされて大の字のままの私。
見下ろされているので影になっていて顔色はよく分からない。けれど、もう大丈夫そうだ。


「…痛かったですユーリさん。これでも一応女なんだけど」

「驚かせたお前が悪い。どこであんなん覚えてきた?」

「ふふー、ジュディスねえさん」

「やっぱりか……」

疲労混じりのため息をついたユーリを見て、にこにこと笑う。

「なーに笑ってんだ」

「だって、もう怒ってないじゃん?」

ユーリが怒ってるの嫌だし。
言えば、ユーリは少し驚いてから呆れたように薄く笑った。












(ところで、もう起き上がっていい?)
(却下)
(えー!?なんで)

(こんな赤い顔見せらんねーから、だよ)








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空気の読める犬を書きたかった

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