長話

□お仲間ひとり
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暗く湿った地下牢。
ふいに出口のある方から言い争う声がして、牢屋の壁を挟んで話していた二人――一人の中年と一人の青年は口を噤んだ。
話し声というには少し騒がしい会話は、二人分の足音と共にだんだんとこちらへ近づいてくる。
そのうちの低い方の声は看守のようだ。それとソプラノを帯びた声――まだ、幾分か幼いような女の声。それが大声で言い争っている。

「牢屋仲間が増えたわね」

そちらに気をとられた隣人の声が、やたら嬉しそうなのは気のせいではないだろう。

やがてその喧噪ははっきり聞こえるようになり、青年の牢屋の前で止まった。

「…大人しくしろと言っているだろう!」
「だから、誤解なんですってば!話をちゃんと!」
「事情徴収はあとだ。ほら、入った入った」
「うあおっ、ちょっと待っ」


少女の言葉を遮るように、カシャンと青年の押し込められている牢屋の鍵が開錠する音。
青年は壁に向けていた視線を、のろのろと新しく入って来た人物に移した。するとちょうど牢に入り込められた少女とぱちりと目が合う。
ブラウンの髪と飾りのリボンが揺れた。髪と同じ色の瞳が瞬く。まだ少し幼さの残る顔立ち。それと大きく広がった袖から覗く指先、大きく立ったコートの襟が口元から下を隠してしまっている。そしてリボンのついた長い焦げ色のブーツ。

普通の少女、だ。

じっと観察していると、少女は困ったように眉を下げた。


「あ…お邪魔、します?」






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