長話

□厄難日和
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決定的なダメージを受けたはずのザギがよろりと立ち上がった。
数歩離れた位置にいる青年が刀を持ったまま、しかし満身創痍の彼を見てもう脅威はないと判断したのか構えを解いて話し掛ける。


「相手、完璧に間違ってるぜ。仕事はもっと丁寧にやんな」
「この人はフレンじゃありません!」
「人違いみたいですよ」

それぞれの忠告。ところが耳に入っていないのか逆効果なのか、愉悦の境地に達した笑いが木霊した。

「そんな些細なことはどうでもいい!さあ、続きをやるぞ!」
「そりゃ、どういう理屈だよ。ったく、フレンもとんでもねえのに狙われてんな」
「厄介なタイプ、みたいですね」

ボロボロになりながらも、なおも武器を握るタフさ。
まさかまだ隠し玉があるのだろうか。微かな緊張が走る。

「ザギ」

不意の声は、闇からだった。
ザギの背後に気配なく現れたのは顔が見えないような独特の仮面を被った男。それが一人、彼に話し掛けた。

「ザギ、引き上げだ。こっちのミスで騎士団に気付かれた」


騎士団…?なんのことだろうか。
しかしどうやら、彼らにとっては都合の悪いことらしい。風はこちらに吹いている。

「オレの邪魔をするな…まだ上り詰めちゃいない!」
「騎士団が来る前に引くぞ。今日で楽しみを終わりにしたいのか?」

その言葉はザギにとって絶大な効果があったようで。瞬時に昂りは冷め、不機嫌になって舌打ちをする。そして男に連れられるまま闇に消えた。
暫くの警戒の後、真に脅威が去ったらしい事がわかり、緊張がゆっくりとほどけていく。
久しぶりの戦闘に軽く吐息して、呟く。

「今日は厄日かな…」
「全く、同感だぜ」

独り言のつもりだったのに青年の思わぬ同意が返ってきて、少し、笑ってしまった。




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