長話
□即戦力通知
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「死ねえっ!!」
ガキン!という金属同士がぶつかり合う音で我に返った。眼前では刃と刃の攻防戦が繰り広げられている。なぜこんな厄介なことになっているのだろう。
戦いを仕掛けてきたザギと名乗る男は“フレン”という人を捜していた。でも青年は“フレン”ではないと言う。しかし今、襲撃者は青年を“フレン”だと思い込んで襲い掛かっていて、いわゆる人違い。…なんて無意味な戦いなんだろう。
「危ない!」
お姫様に叫ばれて、視線を上げるとこちらに向かってどちらが放ったとも知らない衝撃波が飛んでくるところだった。一歩横にずれてそれをかわす。衝撃波はそのまま通り過ぎ、轟音を立てて後ろの壁を爆破した。
「……いつまでもここで戦いが長引くのは良くないよねえ。」
こんな轟音を出していては、何時さっきみたいな騎士達が騒ぎを聞き付けるかわからない。仮にそうなってしまっては、朝までに帰ってくるなんて甘い考えは通じなくなってしまう。
襲撃者は聞く耳を持たないようだし、青年はなんだかんだで苦戦しているようだし、ドレス姿の少女はあたふたしているし。しょうがない。
「ザギさんには悪いけど、こちらにも事情があるんだよね。」
「え?」
神経を研ぎ澄ませるために息を浅く吐き、杖を胸元で握る。再度、深く酸素を吸い、呼吸を整えた。
「慈悲深き氷霊にて、清洌なる棺に眠れ――」
見慣れた水色の複雑な魔法陣が足元に浮かび上がる。背後で見守るお姫様が息を飲む音が聞こえた。
詠唱を終え、陣が一層輝きを増す。杖先に集束する光は十分に満ち、それを示すようにブワリと足元から大気が吹き抜けた。
狙うは襲撃者。
「お兄さん、退がって!
――“ブリジットコフィン”!」
瞬間、辺りが冷気に包まれた。
あれほど強気で攻めてきて、いくら斬りつけても動じなかったそいつが、たった一撃。
たった一撃、氷の刃をモロに喰らっただけで大の字になってぴくりとも動かない。今の術がそれほどヤバイ威力だっていうのは言わないでも分かる。で、術をぶっ放した本人はといえば、
「氷漬けにするつもりだったんだけど…なんかしっくりこないなー…」
なぞと肩を落としていた。マジかよ。
つかオレ、今避けなかったら危なかった?
未だ溶ける様子のない鋭利な氷を見て身震いする。背中を逆なでていった悪寒は単なる寒さのものなのか、いや違うね。
蘇るのは武器庫での会話。どこが“それなりに”だ。
「…思いっきり手練じゃねーか」
即戦力通知
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