長話

□憂いはあった
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なぜか武器がある場所を知っていて、なぜか外へ通じる抜け道にも詳しい謎の青年。それをついて聞かれるのはどうやら快くないらしい。
そんな彼に導かれるままに、薄暗い地下から豪華な飾りの目立つ広い廊下に出た。どうやら牢屋はどこかの城の地下にあったようだ。
高すぎる天井には見たことのない仕掛けの明かりが光り、複雑な紋様が刻まれている。手入れの行き届いた豪奢な扉や窓ガラス。
静電気のような緊張が張り詰める中、異変に気付いたのは前を歩く青年だった。

「、隠れろっ」

短く発された言葉に息を止め、素早く壁に身を寄せて隠れる。
しばらくして慌ただしく鎧が擦れ合う足音と、騎士らしき人物の声が通り過ぎていった。騒がしい雰囲気――まさか、もう脱牢がばれた?

視線の先で、騎士達が何かを取り囲むように集合し始めた。壁に背中を押し付けて聞き耳を立てる。

「もうお戻り下さい、姫様」

…ひめさま?
獲物は私達ではなかったらしい。私達には気付きもせず、騎士達は言葉を続けた。その態度はまるで、逃げ出したペットを追い込むようなそれだ。

 ・・・
「例の件については、我々が伝えておきますから」

「そう言って、あなた方は結局何もしてくれなかったではありませんか!
お願いです。どうか行かせて下さい。どうしても、このことは直接フレンに伝えなくては――」

宥めるような騎士達の声に返事を返したのは、予想とは違った柔らかい少女のもの。
全く話が見えないが、とりあえずここから離れた方がいいと考える。もしこれ以上騎士が集まるとなると脱出が難しくなるからだ。
けど、追い込まれている彼女を見捨てていくのは…なんというか、後ろ髪引かれる。他人の事を気にしている場合ではないのに、悪い癖だ。

「それ以上、近づかないで下さい」


シャン、と刀と鞘が擦れる音。騎士達の屈強な背中に隠されて見えないが、少女が刀を抜いたのだろう。騎士達が微かにざわついた。

「おやめになられた方が…お怪我をなさいますよ」

「…剣の扱い方は心得ています」

「致し方ありませんね、手荒な真似はしたくなかったのですが」

そうして騎士達も剣を抜く。

…あれ。これって、修羅場?
自分と同じように目の前の出来事を見ていた青年に、この状況をどうすべきか話し掛けようと小さく口を開いた、その時。

「え」

その背中は遠ざかった。
――つまり言うと、青年はトラブルの渦中へ駆け出していた。

絶句する自分をよそに青年はバッタバッタと騎士達を薙ぎ倒していく。――目立つ行動はNGじゃないのか!


「フレン!?」


少女が誰かの名を叫ぶ。
それって、この青年の名前?
この少女と青年は知り合いだった?
なるほど、だから助けたのか。

最後の騎士が倒れる。そうして見えた少女は青色の瞳と綺麗色のドレスを揺らして、明らかに不審と警戒をあらわにした。


「だ、誰……?」



あれ?





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