闇を切り裂け、流れ星

□絹の絆、始まりの町
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豪奢に彩られていた廊下は、今や焦げ跡やら刃物の跡やらで傷つき無惨な状況になっていた。何より、床から突き出した巨大な氷の刃と大の字で倒れている兵士達がさらに平穏ではない雰囲気を醸している。警備兵に気づかれなかったことが奇跡だ。だが、まもなくこの異変に勘づかれるだろう。

そう考察していると、同じ事を思っていたのか黒髪の青年が幾分か急かすような瞳をこちらを向けた。

「これじゃあんま長居してらんねえな。あんた、行くぞ」
「了解です。えっと、」

“お姫様”はどうするのかと後ろ髪を引かれながら出口を求め歩き出す。その矢先。

「っ、待って!わたしも連れていって下さい!」

“お姫様”に呼び止められた。
少女に対し、先程何か話し合って事情が分かっているらしい青年は諦めたような溜め息を一つ吐いて、お姫様に向き直る。

「…わかったよ。ひとまず城の外までは一緒だ。」
「あれ。一緒に行くんですか?」

首を傾げて彼女を見る。少し強ばった面持ちで、けれど真っ直ぐな意思を籠めたエメラルドの瞳が私を見つめる。

「わたし、フレンという人に会わなければいけないんです。…あの…わたし、エステリーゼっていいます。よろしくお願いします」

お姫様はぺこりと行儀よく腰を折った。それだけでも気品を感じさせる身のこなし。
名乗ったのは共に行く決意の表れだろう。続けて青年が名乗る。

「ユーリ・ローウェルだ」
「ユーリ…」

あなたが、と口に手をあてて驚いた少女からは、やはり貴族の香りがした。会話から察するに、青年と少女の直接の接点はないらしい。

「ユーリにエステリーゼ、だね」

知り合ってから大分経ってから知った青年の名前と、少女の名前を確かめるために反復する。すると青年――もとい、ユーリがこちらを向いた。

「で、あんたの名は?人の会話聞くだけ聞いといて、自分は名乗らないってのはナシだぜ」

毒のあるセリフと、二人分にしては強い視線が突き刺さる。
やっぱり名乗らなきゃだめ?と視線を送ると、黒の瞳に当たり前だと返される。
覚悟を決めて咳ばらいを一つ。軍人のそれのようにブーツのかかとを鳴らして、背筋を伸ばした。
「リトア・アークランツです。…よろしくお願いしますね」
「えと、リトア…さん?」
「はい。好きに呼んで下さい」

そう言って笑うと、彼女は嬉しそうに返事をして頷いた。青年もふっと笑みを浮かべる。

「それじゃリトアにエステリーゼ。急ぐぜ。」
「了解」
「はい!」






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