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□はじめまして、死んでください
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カツ、とヒールが鳴る。
そう大きな音でもないのに、一切の雑音が沈黙したこの部屋で、唯一音を鳴らすそれはよく反響した。

カツ、カツ、カツ。

ゆっくり、しかし確実に自分の方へと近づいて、大きくなる足音。
ああ、赤の他人がこの部屋入って来れるなんて、きっと外で見張っていたヒト達は殺されてしまったんだろうな。
今、こちらへ歩いてくるたった一人の人間によって――しかも、女に。
ソファーに座ったまま、歩いてくる女を観察する。
黒いコート、黒いブーツ、黒い髪。そして、冷たい威光を宿した黒い瞳。

日本人?中国人?韓国人?
何語で話しかけようかと思った時、彼女の方から言葉が発せられた。
あなたが白蘭?と。

発音がすごくキレイなイタリア語だったから、少し驚く。10年間イタリアに住んでも、外人ではここまで完璧なイタリア語にはならない。

「…そうだよ」

「そう、良かった。
人違いだったらどうしようかと思ってて」

女は立ち止まって、微笑んだ。それは、歩み寄るための好意的な感情は篭められていなかった。冷たい、品定めするような視線は易しいものなんかじゃない。不敵に微笑んだ、の方が正しいか。


「で、君の名前は?」

「さあ…なんでしょうねえ」

「はぐらかさないでよー。
あ、身元は知られたくないカンジ?」

笑いかければ、向こうも楽しげに笑う。先程のまでの冷酷な視線がなくなり、一気に幼い笑顔に変わる。
この朗らかな空間の中で、彼女の手に持った銃と、白い床に残る血の足跡が酷く不釣り合いだった。

「だって、必要無いから」

笑顔のまま、彼女は言う。銃の匕口は、床から僕へと変わっていた。ほころんだ唇から生まれる言葉も、綺麗なイタリア語だった。













はじめまして、んでください
(はいわかりました、とは言えないけどね)








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