短話
□喫茶店で、僕ら。
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「いやあ…それにしても」
思わず、口をついて出た言葉。
二人並んだ私とまん太、同じ苦笑顔で、向かいのソファーに座る葉君とアンナさんの両者を見遣る。
「やっぱり…だよね?」
「だよね…」
大分の背の違いの所為で、私はまん太を見下ろし、まん太は私見上げ。
顔を見合わせて、また苦笑。
そこに、アンナさんの鋭い一言が飛ぶ。
「なんなのよ、二人して気持ち悪い」
「あはは…だって、葉君にこんな美人さんな許婚がいるなんて思わなかったもん。ねえまん太?」
「う、うん…びっくりしちゃったよ。葉君すごいなあ…」
うんうんと頷く私とまん太に対して、葉君は困ったように頭を掻きながら、「いんや、じいちゃんが勝手に決めたことだからうんぬん…」なんて照れ隠しを始めてしまった。温かい緑茶をすすっていたアンナさんの目つきが鋭くなる。わお、恐ろしい。葉君も畏縮して口を噤む。
「いいなあ、許婚。」
呟くと、まん太が苦笑いした。そう上手くいくもんじゃないよ、と彼は言う。
「でも、まん太もお金持ち財閥の長男なんだから、そのうち現れるかもよ、こーんな美人が!」
「うーん…笑えないから困るなあ……」
なんてうなだれてしまった。そんなまん太を私が笑って、つられてみんな笑う。
笑い止んだ時、ふと思い出してしまった。
″見つけた、僕の許婚″
あれは、誰の声だったのだろう。道端でどこからか降って来た声。
聴いたことがある。でも、思い出せない。誰だ?
胸がざわつく。何か、良くない事のような気がして、それ以上考えるのはやめにした。
(その正体を知るには、まだ遠い)